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ゆうじい

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壁打ち小説「西条の地蔵5 」
🫳……………………🦵

酔っぱらいの男は、歩きながら名乗った。
俺は梅沢ね。そっちは?

…梅沢ね、まあ、どうでもいいけど

名前を聞いた瞬間、そう思ったのは事実だ。
こちらの興味の中心は、最初から別の所にある。

「機械メーカーでさ、サービスやってんのよ」

夜道でも構わず、声が少し大きい。
酒の勢いで、身の上話を始めるタイプだ。

広島は自動車会社のお膝元だ。
完成車メーカーだけじゃない。
周囲には、それを支える中小の部品メーカー、加工業者、設備会社が山ほどある。

「この辺、工場多いだろ?
 うちの機械も、結構入ってんだ」

梅沢はそう言って、胸を張る。
酔っていても、仕事の話になると少しだけ滑舌が良くなる。

「今日はメンテで西条まで来てさ。
 終わったら、飲まずにいられるわけねえだろ」

それはまあ、分からなくもない。

麻上は、横を歩きながら静かに相槌を打つ。
聞いているようで、聞き流している。
必要な情報だけ拾う、記者の癖だ。

「で、路地って、あの先?」

梅沢が顎で示した方向に、あの角がある。
街灯の光が途切れる場所。

「……そうだ」

足元のアスファルトが、わずかに湿っている。
昼間に降った雨の名残か、それとも別の何かか。

「地蔵があるって言ってたよな」

梅沢が笑う。

「工場じゃさ、
 安全祈願で地蔵置くとこもあるけど、
 あれって効くのかね?」

その言い方が、
あの「やめろっ」という声と、妙に噛み合わない。

私は答えなかった。

路地の入口が、目の前に現れる。
人ひとり分。
相変わらず、狭い。

街灯は、少し先。
中ほどは、影になっている。

「ほら、何もねえじゃん」

梅沢が先に足を踏み入れた。

「ほら、何もねえじゃん」

梅沢がそう言って、もう一歩、路地の奥へ踏み込んだ。

その瞬間だった。

――ズッ。

濡れた布を引きずるような音。
靴底が滑ったのとは違う。
“引かれた”音だった。

「……あ?」

梅沢の声が、間の抜けた音に変わる。

次の瞬間、彼の体が不自然に後ろへ傾いた。
転ぶ、というより――引き戻される。

「おい、ちょ、何だこれ!」

足をばたつかせる。
だが、踏ん張れない。

私は見た。

梅沢の足首。
ズボンの裾が、何かに掴まれている。

路地の影。
地面と壁の境目。
そこから、腕が一本、伸びていた。

人の腕だ。
色は、街灯の光を吸い込んだようにくすんでいる。
血の気がない。
指は異様に細く、長い。

「ふざけんな!誰だよ!」

梅沢が怒鳴る。
酔いが、一気に吹き飛んだ声だった。

次の瞬間、
もう一本、腕が出てきた。

そして、引く。

力任せではない。
静かで、確実な引き。

「やめ――」

梅沢の声が、途中で途切れる。

路地の奥。
街灯の届かない、完全な影の中へ。

靴底がアスファルトを削る音。
布が擦れる音。
それだけ。

悲鳴は、ない。

数秒。
いや、もっと短かったかもしれない。

そして――
音が、止んだ。

路地には、何もない。
人が立っていた痕跡すら、最初からなかったみたいに。

私は、息をするのを忘れていた。

横を見ると、麻上が立ち尽くしている。
顔色が、さっきより一段白い。

「……これってヤバくないですか…」
声が、かすれている。

私は、ゆっくり頷いた。
…だよね…
声にならない

麻上美桜は続ける
「こんなの記事にできない。だって事件でしょ、これ」

とりあえず駅前の交番に行く事にしたが、麻上はこのまま帰らせる事にした。

つづく。
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