こんな時間まで研究室にいて帰ってこない彼氏を驚かしてやろうと思ったら、いつの間にか短編小説みたいになってた。…以下LINEの続きの文章。

投稿

らいむ

2025/07/11

こんな時間まで研究室にいて帰ってこない彼氏を驚かしてやろうと思ったら、いつの間にか短編小説みたいになってた。…以下LINEの続きの文章。

その学生は、研究室は厳しくて、就活も帰省もする時間もなかったけど、研究が楽しいから1年生の時は元気に研究してたの。
寝る時間を削っても、遊びに行く時間がなくても、研究だけしてれば別に良いって思ってた。

でも、M2の8月12日にお母さんが亡くなったの。お葬式に出るために実家に帰るって担当教員に話した時、担当教員が訝しげな顔した。その時、初めて自分の研究室の異常さに気づいた。結局、お葬式に出ることはできたんだけど、「なんで研究ばっかりして帰省しなかったんだろう」「電話の1本でもしなかったんだろう」ってお葬式の間、ずっと後悔してた。でも、泣かなかった。逆に、もう引き返せないと思って、東京に帰ってから益々研究にのめり込むようになった。研究をしてる間だけは、何も考えなくて済むから。

9月13日。お父さんから珍しく電話があった。引き出しからお母さんの遺書が見つかったらしい。内容は…自分には死亡保険がかけてあるから、そのお金を学費や生活費にしてほしいとのことだった。それを聞いた時、少し違和感を感じた。何故なら父親は大手に勤める会社員で、経済的余裕のある父が自分の学費や生活費を支払ってくれていると思っていたからだ。それなのに、わざわざ、遺書にこんなことを書くだろうかと考えていると、普段は寡黙なお父さんが電話の奥で、引き攣るように泣きながら、話だした。

4年前。父の会社は事業拡大に失敗し、業績悪化がひどく、人件費を抑えるためにリストラ政策に踏み切った。そこで選ばれたのは、若手よりコストが高くスキルが古い中高年層だった。父はその1人だったということだ。50歳を過ぎていた父は新たに職を見つける気にはなれなかった。年金だけでも生きていくことはできるだろう…しかし、今まで仕事一筋で生きてきた父は、仕事を急に失った時、何をして日々を過ごせばいいのか分からなくなってしまった。最初は、昼まで寝て昼から酒を飲んで、背徳感を楽しもうと思った。しかし、なんだか生産性のないことをしていると惨めな気持ちになってしまう。そこで、生産性のある投資でもしてお金を増やそうと思いたった。金が増えると達成感があり、働いていた時のように自分がお金を生み出しているんだというような優越感にも浸れた。儲けた額に比例して達成感も優越感も高くなる。そこで、どんどん投資にかける額も高くなっていった。……そして、気づけば自分が30年間必死に働いて貯めた貯金の全てを失っていた。息子への仕送りの金すらなくなっていたのだ。

「今月、仕送りまだ？」という息子からのLINEで母はその状況にようやく気付いた。病気がちで結婚してからは仕事を辞めて専業主婦となっていた母だったが、抜け殻のようになった夫に何も期待することなどできないと、息子のために引越し業者でアルバイトを始め、そして…

父からその話を聞かされた時、母が死んでから始めて涙が止まらなくなった。なにも知らなかった自分を責めた。父を責めることはできなかった。何故なら自分も父と一緒だからだ。仕事や投資に一生懸命になることで自分の存在価値を感じることに必死だった。母の命まで犠牲にして、自分は一体何を得たというのだろう。母はどんな自分にだって、今まで無償の愛を与え続けてくれていたのに。

5日後、母の遺書と保険金の書類が入った封筒が届いた。保険金の額を見る。節約すれば、卒業まで足りるだろう…でも、その後は？卒業後はなんとなく博士に進もうかと考えていて、ろくに就職活動もしていなかった。もう9月だ。今からでは間に合わないだろう。修士でも奨学金を借りていた。博士でも借りるつもりだった。これからどうやって返していくんだろう。父はこれからどうやって生活していくのだろう。自分が父の生活費まで賄わなければいけないのだろう。一体どうやって？

寮の屋上でそんなことをグルグルと考えていると、寮の正面玄関前の地面の煉瓦調の地面までもグルグル回っているように見えてきた。「あ、あそこにいけば楽になれる。」

今日も1号館の灯りが夜遅くまでついている。見に行かないとな👁️👁️