ＳＳ・もしも願いが叶うなら｜GRAVITY(グラビティ) SNS

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投稿

かなめん

2023/12/23

【ＳＳ・もしも願いが叶うなら】

戦士の俺は、ここにたどり着くまでの事を思い出していた。

怪力の持ち主、ドワーフの親父は……

「ここはワシに任せろ！」

と、迷いの谷の一本道。戦斧を振り回し、単身ゴーレムの群に飛び出していった。奴の願いは……

もう一度、最高の金細工を作ることだった。

風の妖精、エルフの娘。豪火に巻かれた仲間達を守る為……

「そんな悲しい顔をしないで下さい。これでやっとご恩をお返し出来ます」

身を削り豪火を防ぎ、精霊と共に消えていった。エルフの願いは……

飛び出した故郷に帰る事だった。

世俗嫌いの男、稀代の魔術師。

「なに簡単な選択です。今、必要なのは貴方なのです……」

命と引き換えに俺の魂を、あの世から呼び戻してくれた。やつの願いは……

世界中の本を読む事だった。

そして……

吟遊詩人は、いつも絶望の淵に立つ仲間達に、詩（うた）で勇気をくれた。

「私は……詩（うた）う事しか……出来ないから……」

と、言って俺の背へ放たれた矢を受け、俺の胸の中で眠りについた。

彼女の願いは……

俺は今は亡き、かけがえの無い仲間たちの事を思い返していた。

「よくぞ、ここまでたどりついた。さあ！願いを叶えようぞ！！」

すべての願いを叶えてくれるという「神」は言った。

俺たちは、このために冒険をしてきた。

でも今、この場には「俺」だけが立っていた。

「俺の願いは……」

俺はつぶやき、そしてしばらく考え、そして今までの事を思い出し、息を吸い込んで改めて言った。

「なにも……なにも、ありません」

と。

「そうか……」

と、言って神は消えた。あっけなかった。

『これで良かったんだ……』

多くのモノを失い過ぎた。俺だけが、何かを得るという事は出来やしない。俺はきびすを返すと、もと来た道を歩き出した。
　
すると……

「……！！」

その瞬間、「声」が身体中に響いた。

『汝の願い、確かに聞き届けたぞ！！』

神の声だった。俺の目の前には……

「ドワーフ！エルフ！魔術師！」

俺は涙をこらえる事が出来なかった。そして……

「戦士〜！！」

俺の胸に、泣き笑いした吟遊詩人が飛び込んで来た。吟遊詩人と俺の願い、この冒険が終えたなら……

「一緒になろう！」

そう俺は言って、きつく彼女を抱きしめたのだった。