当時生き急いでいた頃、よくツレの運転で深夜の海に行っていた。脳の回路が近かったから、言葉を省略して会話をしていたのだが、その時も海を眺めながら唐突に、「(海に来たくなるのは)なんでだろうな」と声に出したら「(全生物の)母だからじゃね?」と返された。俺もそうだよなと思っていた。俺たちは、生まれも育ちもまるっきり違っていたけれど、おそらく脳の構造が近かったんだと思う。単語も構文も被っていたし、最終的にはほとんどの言葉を省略していた。けれど、それだけ互いを理解していたとしても、俺たちは共には生きて行けなかった。残酷な話だが、人間は理解するだけでは生きていけないんだと悟った。