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おっふ

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おべんとう
アクア−Devil
むかしむかし、雪深い小さな村に、こはるちゃんという女の子が住んでいました。
こはるちゃんは、おじいちゃんと二人暮らし。おじいちゃんは遠くの港で漁師をしていて、毎年冬の間だけ、大きな船に乗って遠くの海へ行ってしまいます。
出発の日、おじいちゃんはこはるちゃんに言いました。
「春が来るころに戻るよ。それまで、毎日少しずつ楽しみに待っていておくれ」
そして、おじいちゃんは小さな木の箱をそっと渡しました。
「これは『待つカレンダー』じゃ。
中に小さな引き出しが三十個あって、毎日ひとつずつ開けられるようになっている。
春が来るまで、毎日ひとつだけ開けてごらん」
こはるちゃんは箱を抱きしめて、
「うん! 毎日ワクワクしながら待つよ!」
と約束しました。
おじいちゃんの船が出航した日から、こはるちゃんの「待つ時間」が始まりました。
最初の朝、こはるちゃんは一番上の引き出しを開けました。
中には、きれいな青い貝殻が入っていました。
耳に当てると、遠くの海の音が聞こえてきました。
二日目は、小さな星の形のクッキー。
三日目は、雪の結晶の絵が描かれたカード。
四日目は、ふわふわの白い羽根。
五日目は、おじいちゃんが書いた短い手紙――
「今日は大きな魚が跳ねたよ。こはるの笑顔を思い出した」
毎日毎日、引き出しを開ける時間が、こはるちゃんの一番の楽しみになりました。
雪が降る朝も、風が強い日も、ちょっと寂しくなった夜も、
「明日はどんなものが入ってるかな?」
と思うだけで、心がぽかぽか温かくなりました。
時にはお友達が遊びに来て、一緒に引き出しを開けました。
「わあ、今日は小さな船の模型だ!」
「見て見て、キラキラ光る石!」
みんなで笑って、喜んで、おじいちゃんのことを話しました。
三十日目、最後の引き出しの日。
こはるちゃんは少しドキドキしながら開けました。
中には、何も入っていませんでした。
でも、引き出しの底に、小さな文字が書いてありました。
『今日はおじいちゃんが帰る日。
待っててくれて、ありがとう。』
その瞬間、遠くから聞き慣れた船の汽笛が鳴りました。
こはるちゃんは大急ぎでコートを着て、外へ飛び出しました。
港に向かう道を、雪を蹴り上げながら走りました。
そして、港に着いたとき――
おじいちゃんが、大きな笑顔で手を振っていました。
こはるちゃんは駆け寄って、おじいちゃんの胸に飛び込みました。
「毎日、毎日、ワクワクしながら待ってたよ!」
「おじいちゃんも、こはるに会いたくて、毎日頑張ったよ」
二人は手をつないで、家に帰りました。
待つ時間は、長いように思えるけれど、
小さな楽しみをひとつずつ重ねていくと、
心はいっぱいの宝物で満たされる。
そして、待っていた人が帰ってきたとき、
その喜びは、世界で一番大きなプレゼントになる。
それから後も、こはるちゃんはときどきあの木の箱を開けて、
貝殻を耳に当てたり、クッキーのことを思い出したりして、
優しい気持ちになりました。
待つ時間は、
ただの空白じゃなくて、
愛が少しずつ育つ、特別な時間だったのです。
おしまい。


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