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アッチャー

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掌編・不純情小説
【届いた柿の味】(全5話)

④赤い小箱の痛み(後)

「はい。あげる」

 淳也の手のひらに赤い小箱が乗った。淳也が嬉々として飛び跳ねた。幸代の顔が赤い。
 哲生はすぐさまその場を離れて歩きだした。目に涙が溢れるのを感じ、顔を上に向けた。冬の青空に浮かぶ雲の輪郭が滲んだ。口を固く閉じたまま早足で二人から遠ざかっていったが、角を曲がる前に堪えきれず嗚咽を漏らした。
 チョコレートをもらえるのは、淳也ではなく自分であったはずだ。自分にはその権利がある。幸代とは幼稚園の時から一緒だった。小学生になってからはそれぞれに同性の友達と遊ぶようになったが、二人で遊んでいた頃の思い出はいくつもあった。両方の親たちが撮った、運動会や海水浴での二人の写真もある。哲生と幸代には、歴史があるのだ。
 哲生は嗚咽に肩を震わせながら、できるだけ二人から離れようと歩きつづた。
 意識して考えるまでもなく、哲生の思いと幸代の思いは、変わらないものだと思い込んでいた。そうではなかったと知り、哲生はとても悲しくなった。幸代のことが急速に遠い存在に感じられていった。
 そして、淳也のことを考えた。転校生の淳也は、話す言葉も服装も東京っ子らしくスマートで、すぐにクラスの人気ものになった。彼はハンサムで面白く、哲生より背が高く、哲生よりスポーツがよくできた。初めて哲生は、自分と誰かを比べることをした。そして敗北を知った。


⑤柿の味(最終話)へつづく

©️2024九竜なな也
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