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アッチャー

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掌編・不純情小説
【届いた柿の味】(全5話)

④赤い小箱の痛み(前)

「ちょうだい!」

 重なった二人の声と同時に、ふたつの手のひらが差し出された。哲生の手と、淳也の手だ。

 淳也は、東京から来た。
 哲生と幸代が三年生に進級した新学期に、父親の転勤によりこの街に引っ越してきたのだ。二人の家の近くに、子どもたちの遊び場になっていた資材置き場があったが、そこにシャタク(社宅)と呼ばれる立派なアパートが建った。淳也は大人たちから「シャタクの子」と呼ばれ、決して彼をいじめたりしてはいけないと、哲生も強く両親から注意されていた。
 哲生と幸代、そして転校生の淳也が同じクラスになり、家が近い三人は自然と仲良くなった。学校でも放課後でも、遊ぶときは男子と女子に別れるようになっていたが、登下校の時だけは、二十分近い道のりを三人で一緒に歩くことが多かった。

 淳也はすっかりクラスに溶け込み、月日が経って二月になった。
 哲生と淳也が道路でコマを回して遊んでいると、幸代がニコニコしながら近づいてきて、二人に声をかけた。母親の許可を得て、初めてバレンタインデーのチョコレートを買ったのだと、リボンのついた赤い小箱を大事そうに持っている。

「誰にあげようかな」

 少し照れた笑顔で幸代が言った。

「ちょうだい!」

 差し出された二人の手のひらを交互に見て、それから少しのあいだ目をつぶり、幸代は考えるそぶりを見せた。

           ④(後)へつづく

©️2024九竜なな也
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