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アッチャー

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掌編・不純情小説 【姉妹の賭け事】

3/5 暗闇の情動

淳子が何度かあくびをした。宮古島まで旅程に含めた四泊五日の最終夜だ。さすがに疲れただろう。まだ10時を過ぎたばかりだが、寝た方がいいと圭司は提案した。
3LDKの個室は鍵のない引き戸で区切られている。それぞれの部屋に分かれて電気を消した。

慣れないベッドで寝つけない圭司は、依子がまだ在学中だった去年の秋のことを思い出していた。終わりの見えない大学祭の打ち上げの飲み会を途中で抜けて帰ろうと依子に誘われ、彼女のアパートに行ってふたりで飲み直した。

男子ばかりの工学部の中で、依子は軽いという噂を圭司は聞いていたが、研究を通じて彼女の人となりをよく知っているので、気にはしていなかった。ただ気になっていたのは、依子が長く付き合っていた先輩と別れたらしいということと、共通の友人である同期の晴人から、一週間前に依子と寝たと打ち明けられたことだ。晴人には恋人がいて、依子と付き合うつもりはないという。

テーブルを挟んでふたりで缶ビールを飲んでいると、依子がしくしくと泣き出した。圭司は何も聞かず、二本目のビールを開けて依子の前におき、自分もちびちびと飲み続けた。
依子はひとしきり泣いたあと、圭司に笑顔を見せて、もうだいぶ遅いから泊まっていけと言った。

「いいんですか?オレ男ですよ」
圭司は照れ隠しに言った。

「大丈夫よ。圭司くんはあたしの弟分なんだから、変なことはしないでしょ」

一つの部屋で、依子のベッドからできるだけ遠くに離れた位置に圭司が寝る布団が敷かれた。電灯のスイッチが切られ真っ暗になった。

眠りに落ちかけていた圭司は、自分の名が呼ばれたような気がして、わずかに目を開いた。暗闇の中で、依子が上から圭司を見つめている。寝返りをうてば触れるほど間近に依子の顔があるのがわかる。吐息が頬にあたる。
鼓動が高鳴り、突き上げてくるような動物的な情動を感じながら、圭司はその一方で、依子とはそういう関係を持ちたくないと思った。大柄で筋肉質の晴人と、痩せた自分の体を依子に比べられるのが嫌だった。それに、圭司には思いを告白しようかどうか迷っている幼なじみの女ともだちがいた。彼女のことが脳裏をよぎった。
必死に寝たふりをしていると、やがて依子は音を立てずに自分のベッドに戻っていった。

(つづく)
©️2024九竜なな也
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