ムッスメに言われて初めてミネストローネを作ることに……

秋の坂道ラン

秋も深まり、紅葉が山の端をそっと染めはじめた。朝の空気は澄みわたり、少し冷たくて、どこか懐かしい匂いがした。
こ〜ちゃんはいつもより少し早く目を覚ます。まずは愛犬との散歩だ。東の空がほんのりオレンジ色に染まりはじめた道を、カサッ、カサッと落ち葉を踏みしめながら歩く。犬が嬉しそうにしっぽを揺らし、こ〜ちゃんも自然と笑みがこぼれた。
家に戻ると、ちょうど朝ごはんのいい匂いがしてくる。トーストの香ばしい香り、湯気の立つ味噌汁、そして孫たちの「こ〜ちゃん、おはよー！」の声。賑やかで、あたたかい朝のひととき。
やがて、ママに手を引かれた孫たちは、「いってきまーす！」と元気に玄関を飛び出していった。その背中を見送りながら、こ〜ちゃんは小さくつぶやく。「さぁ、オレも行ってくるか」
ウインドブレーカーを羽織り、シューズの紐をきゅっと結ぶ。久しぶりのランニングだ。
川沿いの道に出ると、季節の移り変わりがはっきりと感じられた。ついこの前まで青々としていた木々の葉は、すっかり茶色に変わり、風に乗って舞い落ちていく。彼岸花の赤ももう見えない。景色は、少しずつ冬の装いへと変わりつつあった。
いつもはゆっくり走るこ〜ちゃんだが、今日は少し気合を入れて、川の堤防の坂道を駆け上がってみることにした。 50メートルほどの短い坂。息が切れるたびに、心の中まで新しい風が通り抜けていく。ダッシュを数本終えた頃には、厚手の上着の中は汗でびっしょりだった。
坂の上から見下ろす川面は静かで、遠くの山々がうっすらと朝の光を受けて輝いていた。「いい景色だなぁ…」その言葉が自然とこぼれた。
帰り道、街路樹の下では落ち葉が道を覆い、足元からふんわりと秋の音がした。季節も人生も、少しずつ前に進んでいく。焦らず、あわてず、あきらめず―― そんな自分のリズムで歩けばいい。
家に戻り、シャワーで汗を流すと、身体も心もすっきりとしていた。湯上がりに窓の外を見やると、さっきよりも明るくなった空の下で、洗濯物がやさしく風に揺れている。
「よし、今日もいい一日になりそうだ」こ〜ちゃんは小さくつぶやき、温かいコーヒーを片手に、静かな秋の朝を味わった。