投稿

東雲サクヤ☁️
※ポエムではなく、短編小説版です。
森の奥で、私はひとつの卵を拾った。
虹色に光る、小さくて、あまりにも孤独な卵だった。
私はその瞬間、ふと考えた。
「ああ、これなら、私にも守れるかもしれない」と。
世界に背を向け、心を閉ざしていた私の胸が、
少しだけざわついたのだ。
あの頃の私は、何も感じなかった。
花の色も、鳥の歌も、太陽の光も、
すべてが遠く、冷たく、
生きることは、虚ろな芝居のように思えていた。
生きるのが嫌で、死ぬ勇気もなく、
ただ毎日をやり過ごしていた。
しかし、あの卵だけは違った。
まるで、私の死んだ心の奥底に、
小さな灯を差し込むかのように光っていた。
私は毛布でくるみ、手のひらにそっと置いた。
抱くたびに、胸の奥で微かに何かが鳴った。
それは、世界に対する諦めを忘れさせる、
小さな、しかし確かな熱だった。
夜ごと、私は卵に話しかけた。
「大丈夫、もう怖くないよ」
声は小さく、そして不器用で、
自分でも何を言っているのかわからないような言葉だった。
けれど、誰もいない森で、私はその卵に
唯一の希望を託していたのだ。
やがて、卵がかすかに震え、殻がひび割れた。
その中から、小さな龍が顔を出した。
手のひらに収まるほどの、小さな夢のような生きもの。
私は息を呑み、涙がにじんだ。
「生きてるの……生きているんだ」
それだけを、誰に聞かせるでもなくつぶやいた。
その日から、私と龍の日常が始まった。
私はご飯を用意し、糞やおしっこの世話をし、
夜ごと絵本を読み聞かせた。
龍は私の言葉を理解できなかった。
それでも、私の笑顔を見れば、尾を揺らした。
抱きしめれば、体をくるくると巻きつけた。
「愛されている」――それだけは、きっとわかっていたのだと思う。
私は龍を見て、自分の心の奥にある小さな光を確かめた。
生きていて、よかった。
でも、そんな幸福は、いつか必ず壊れるのではないか。
胸の奥の不安は、消えることなく、静かに膨らんでいた。
季節が幾つも過ぎ、龍は大きくなった。
空の半分を覆い、森の木々を踏みつけるほどの影を持つようになった。
人々は恐れ、叫んだ。
「化け物だ! 村を滅ぼす!」
そのたびに、私は胸が痛くなり、頭を抱えて泣きたくなった。
でも、龍は変わらなかった。
私と一緒にいることだけで、幸せそうに尾を揺らした。
――ああ、私はどれほど愚かだったのだろう。
この子を守りたいという気持ちだけで、
人々の怒りや恐れを考えなかった。
愛とは、いつもこうして、痛みを伴うものなのか。
私の愛は、龍を傷つけずに済むのか。
いつも胸の奥で震えながら、私は夜を過ごした。
ある夜、村人たちは火を掲げ、私を人質に取り、龍を罠へ誘った。
龍は炎と矢に貫かれながらも、決して暴れなかった。
その瞳は、ただ私を見つめていた。
私は泣き叫んだ。
「やめて、この子は悪くない! お願い、見て!」
けれど、誰も耳を貸さなかった。
龍が倒れた瞬間、世界は一度止まったように思えた。
その目に宿った最後の光は、私を刺すように鮮烈で、
胸が裂けるほど痛く、
同時に、私の存在などこの世界に何の価値もないことを思い知らされた。
死にたいとも思ったが、死ねなかった。
あの子の命が私の胸に残っている限り、
私は生き続けるしかなかった。
その時だ。
空が裂け、無数の龍が現れた。
街も森も、人も、すべてを焼き尽くした。
悲鳴も祈りも、すべて灰となり、風に溶けていった。
残されたのは、私ひとりだけ。
焦げた森で、私は龍の亡骸を抱きしめた。
その体は冷たく、動かない。
でも、胸の奥には、なぜか春のような温もりが残っていた。
世界は残酷で、胸が張り裂けそうだったけれど、
それでも愛というものは、確かに存在するのだと、私は感じた。
私は空を見上げた。
灰色の世界の向こうに、白い月が静かに浮かんでいた。
世界がどうなろうとも、月は、変わらず、美しかった。
――月は、今も綺麗なままです。
狂おしいほどに、鮮烈に。

関連する投稿をみつける
スヌピー
私『〇〇やってきてもいいですか〜』
と言うと
先輩『今これやってるからそこにいて』
と言われ様子見る…
を繰り返しててなんかスムーズに熟せないんだよね…
それでいて
先輩『何か忘れてない?…
やっておいたから忘れないでね』
って…
やろうと思っても様子ばっか伺いすぎて
先に進めんのよ…
やる事は大体頭に入ってるけど先輩の動き見て今何したら先輩にとっての正解かってのがわからないから『今何やればいいですか?』
って言うと仕事覚えてない人扱いやし…どしたらええねん…
多分波長合わない。一緒にいて読めないもん。
他の人といると仕事達成感感じるけど
この先輩とだといつも気付かれしちゃってる…

不正直不動産
自分次第ではあるけどねー

𝓗 .

きうい
ちょみこ
やっぱり自分はあなたの機嫌を保つための道具でしかなくて、こんな馬鹿とは心の底から楽しめないって思われてるんだよ…
やっぱTRPGは遊ぶ人との相性が大事なんよな…そこは避けられんよな…
もっとみる 
話題の投稿をみつける

すずむ
「ノータイム手筋」30分
【囲碁基礎トレ285日】
~1460プロジェクト~

あ〜あ
ほんとに今思い出しても心臓ギューってなる
あんな綺麗なことある?人間が………

しらす
そしてもちろんaikoさんの歌声もむちゃくちゃによくて
本当にセッション最高でしたありがとうございましたこれからもまたやってください……………
#EIGHTJAM

りかこ
上手に居ても下手に居てもレスが来ないな
だけど赴き 今日も赴き
2つ3つ(レスを)数えてれば疲れてしかない
きっと昔はこんな娘じゃなかったはずだよ
誰にだってso上手にレスを送ってた
なんだかセンチメンタルなレス乞いの歌

オルバ
創刊の年からずっと取材受け続けているお互いの信頼感と、しっかりとしたコンセプトを持って話を聴こうとしてくれている取材側の姿勢を感じ、
話したくなるし聞いてくれる、と俳優達が口を揃えて言う丁寧な誌面づくりが素晴らしいなと
裏切りの街の号も読み返して、泣きそう♡

ぽる🍧

お も
興味を持たせてもらえる余地があるというか
だから公録の最後に武くんが言ってくれたこと、そう思ってるんだって
嬉しかったなーーー
循環and循環

しらす
これを機会にセッションが増えたら横山さんのスキルもまた爆裂に成長するんだろうな、やってくれないかな #EIGHTJAM

タック
ガ「なんで俺がお祝いされるんだ」
暦「5000歳だってマウント取ってたじゃないですか」
ガ「そんなひねくれ方してる方が年寄り臭いんだよ」
暦「俺は最新の社会問題のニートですよ」
ち「争いのレベルが低いっす」
夢「あんな老人にはなりたくないね」

シズオ
もっとみる 
関連検索ワード
