共感で繋がるSNS
GRAVITY(グラビティ) SNS

投稿

忠犬ハチ公

忠犬ハチ公

ぬるいスープを飲む。

ひとしきり笑い合った後の静けさ、虚しさは、まるで苺の乗っていないショートケーキみたいだ。
そう考えながら、今日のデートを思い出す。

彼女の花唇が、三日月形になる時が、いちばん愉しく思えた。ころころと鈴を転がすように笑っていて、愛らしくて、思わずこっちまでつられてしまうような。
夕陽に照らされて、紅く燃えた彼女の瞳に魅入ってしまう。不意にこちらを向いて、照れくさそうに「どうしたの」と微笑む姿に、愛おしさ以上に何を思えばいい。そう、言葉がよぎるような。

他愛もない話をして、甘味に舌鼓を打つ。二人してクリームが鼻に乗っかって、けらけらと笑い合った。
彼女が真剣に物を選んでいる間、私は彼女を眺めている。言葉は発せずとも、眉を寄せていたり、顔が綻んでいたり、悩んでいる様が全部顔に出ていて、愉快で、それでいて愛々しかった。何をしていても可愛いのだな、と、思う。

「ねえ、これどう思う?」

「ねえ、これ美味しいよ。」

「ねえ!あれ、楽しそうじゃない?」

愉しそうな彼女の声が、耳に優しい。


「ねえ」

「だいすきだよ。」

私を愛おしむ様な視線と、蕩けそうな口振りに、思わず頬が熱くなる。



───楽しかったな、

独りの部屋で小さく呟いた。

スープは、手を止めている間にすっかり冷めきってしまった。

そうしてまた、冷たいスープを飲む。

彼女のことを、思い出しながら。
GRAVITY
GRAVITY7
関連する投稿をみつける
話題の投稿をみつける
関連検索ワード

ぬるいスープを飲む。