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羯帝王

羯帝王

一通り、家の用事が済んだか。黒竜や、庭にひまわりが咲いておるじゃろう。絵に書いて残したいと思っていたが絵心の無い私が描くよりも、黒竜に描いてもらいたくて待っておったのじゃ。何処で聞き付ける訳でもなく蜂達が画材道具一式を黒竜の部屋から持って来て居間の机の上に並べて行く。一難去ってまた一難、これは余りにも難易度が高過ぎやしないか。しかし、ここでボロを出してしまう訳には行かない。

老竜に頼まれたら断れないよ。久々に絵を描いてみようかな。ちょっと血を一度失った後遺症かは分からないけど以前の様に上手く描ける時と描けない時があるんだ。余り上手く描けなくても良いかな?

時と場合によるのか?

うん。今は不調だけど、とりあえず挑戦してみるよ。

無理はしなくて良いぞ。

うん。大丈夫。
自然体で黒竜に成り切って話す羯帝王。
これで何とか絵が上手く描けなくても大丈夫そうだ。

羯帝王が扮した黒竜はひまわりを絵に描いた。その絵は以前、銀ヤンマのケンちゃんが黒竜に描いた絵に毛の生えた程度の代物だった。子供が描いた落書き紛いであった。しかし、羯帝王の必殺の気を込めて描いた。

出来上がったひまわりの絵をマジマジと見る老竜。
態とか、いや、真剣に描いていたな。表情を見れば分かる。この絵も中々、味があって良い。人界ではこういう味が有る絵の方が芸術的価値が有り、高値で取引されたりもする。黒竜は自然界に有るものを有るがままに詳細に描くことに長けていたからそういう方向で行くとばかり思っていたが、芸術的意義がこうも正反対な方向に進むものなのか。しかし、せっかく黒竜が心を込めて描いてくれた絵だ。居間に飾るとしよう。これはこれで良き絵だ。

内心冷や汗ものだった。
何とかこの難問をクリア出来た。
私の描いた絵が居間に飾ってもらえるとは、羯帝王はそれが素直に大変嬉しくて、老竜から認めてもらえたことが喜ばしくて、黒竜への怒りはこの時には消えていた。


さて、そろそろ夕飯にしようか。竜が食べる物は万物の生命からの献上品。お米と野菜。人間のように肉や魚は食卓には並ばない。蜂達がお手伝いする。食卓は老竜と黒竜だけ、蜂達は何匹かお手伝いで傍で待機している。

黒竜に扮した羯帝王が一口食べる。
電撃が走る。黒竜に扮してから水しか飲んでいなかった。竜の味覚を羯帝王は初めて知る。その舌は今迄色々な種に化けて来たが、感知する味覚の構造が次元が違う。人間で同じ物を食べてもこうはならない。竜神種の味覚とはとんでもない。美味しい。米の一粒一粒の味が全身に染み渡る。余りの感動に羯帝王が扮した黒竜はここに来て本当に良かった。説教を耐え忍んだ甲斐があった。全て報われた。それほどに美味しかった。

その日は枕を並べて老竜と一緒に寝ることになった。先に眠ってしまう老竜。しばらくすると、寝言だろうか、黒竜や、そっちへ行っては危ない。こっちにおいで。そっちに行ってはいけない。老竜の手を優しく握る羯帝王。引き寄せられて、一緒にねんねしような黒竜や。黒竜が小さかった時のことを思い出しているのだろうか?抱き枕にされる。為すがまま、されるがまま、朝を迎える。ずっと老竜から頭を撫でられ続けて、結局一睡も出来なかった。しかし、疲れは全然無かった。年齢で言えば遥かに自分の方が老竜より年上となるが、父親がいたらこんな感じなのかと、自分が羯帝の子供達にして来た教育を大変反省させられた。羯帝王はやんちゃで言うことを全然聞かない子供達を力尽くで押さえ込んで来た。老竜からは学ぶことは多い、竜としての在り方以外でも親としての在り方など、今からでも老竜のように子供達と接することが出来るだろうか、自分は子供達に愛情を掛けたことがあっただろうか。

親のエゴに従わせて来たも同然。しかし、その時はそうせざるを得なかった。他の生き方をさせてやることが出来なかった。まずはそのことに対する子供達への謝罪からだ。そこから始めよう。
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