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彰(療法家)

彰(療法家)

静かな森の奥。陽が西へ傾き、木々の梢の隙間から、黄金の光が降り注いでいた。
 新妻はキャンバスに向かい、絵筆を握る。赤、青、白――彼女の指先で混ざり合う色彩が、花弁となり、枝となり、まるで生き物のように広がっていく。

 その様子を横で見ていた彰は、思わず息を止めた。
 絵の上に浮かび上がった花々の輪郭が、ふと揺らぎ、淡い光の粒となって宙に舞い上がる。
 葉の影から現れた小さな精霊たちが、絵の花弁に指先を触れ、まるで祝福するように淡い輝きを散らした。

 「……見えるのか?」
 背後から低い声がした。振り返ると、師匠が立っていた。
 彼の目は厳しくも優しい光を帯び、新妻と彰の間に漂う光の群れを見つめている。

 「師匠……これ、花の精霊ですか?」と彰が問いかける。
 師は静かに頷き、木漏れ日の中で言葉を紡いだ。

 「心と身体は、別々に見えて、もとはひとつ。
  心が乱れれば、筆は震え、花弁は萎れる。
  だが、身を静めれば心も澄み、精霊すら寄り添う。
  これを――心身一如と呼ぶ。」

 彰は再びキャンバスへ視線を戻す。
 絵の中の花は、絵具で描かれたにすぎないはずなのに、瑞々しい光を帯び、今まさに風に揺れているようだった。
 その傍らで新妻は、少し照れくさそうに笑みを浮かべている。

 「私の心……見えちゃいました?」
 小さな声に、彰の胸は熱を帯びた。

 「……ああ。目を逸らせないほどに、強く、美しい。」

 その言葉に、新妻の頬が紅潮し、精霊たちは一層きらめきを増した。
 黄金の光と花の彩りが重なり合い、二人の間に、静かであたたかな時間が流れていった。
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