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ちゅーる
空気は湿り、木々のざわめきすらも遠い。
耳を澄ませば、どこかで小さな虫が鳴く声がするだけで、時間が止まったような静けさが広がっている。
その静寂の中、一本の木の幹に目が留まった。
そこには小さな抜け殻があり、その殻の上に、まるで幽霊のような白い蝉がじっとぶら下がってた。ら
翅は透き通る翡翠色。体はまだ柔らかく、光を受けるとぼんやりと淡い光沢を返す。赤い目だけが、この生まれたばかりの生命の確かさを物語っている。
音はない。
ただ、ゆっくりと翅が重力に従って形を整えていくのを、時間だけが運んでいた。
この瞬間は、この蝉が七年近く地中で過ごし、ようやく辿り着いた地上の第一歩なのだ。
それを思うと、手を伸ばすことなどできなかった。
山の闇と、しっとりとした夜気と、
羽化したての蝉。
その闇はただの暗闇ではない。
幾百、幾千の命の営みが染み込んだ静寂の深みであり、樹々の根が絡まり合い、土の中には無数の生命が眠り、また目覚めてゆく場所だ。
この闇は過去も未来も飲み込み、時の流れさえも曖昧にする。
闇の中にこそ、山は生きている。
ひとつの儀式のように、そこには侵してはならない静けさがあった。
闇は何も奪わない。
静かに見守り、守り、すべての命が紡ぐ物語を見届けている。
翌朝には、この白い姿はもうどこにもないだろう。
翅が固まり、体は色づき、仲間たちと同じように、夏の空にその声を響かせるに違いない。
だが今だけは、この一瞬だけは、山奥の夜に生まれ落ちたばかりの“白い蝉”が、確かにそこにいた。

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