何が本当かなんか結局わからんから｜みうこの投稿-GRAVITY(グラビティ) SNS

逆ですね。とある理由で、文学を社会に出ようとするちょっと手前で自ら断っていました。働くことやお金を稼ぐこと、生きることの方が自分にとっては最優先。だからしばらく実学や実益のあることばかり追求していました。資産運用、工学や化学、数学などです。私はリーマンショック直撃世代です。ある種絶望的に思えたあの時代をぼんやり今でも思い返します。実学は、単に仕事で必要だったというのもあるし、フィクションの世界にいると、自分がどんどん世界から分断されていくような気がして怖かったのです。

今、朗読をしているのはその反動もありますが、実はジャンルをかなり限定しています。純文学、それも明治前後の近代日本にこだわっているのは、それを通して21世紀の今の日本に至るルーツを改めて自分の中で捉え直すため。世代論を通して、自分が生きている時代に到達するまでの人々や社会がどんな道のりを辿ってきたかを俯瞰したいからです。

なので、現代文学、たとえば村上春樹などにはさほど興味がないのです。むしろ、現代文学に影響を及ぼしたルーツとなっている人々の方に焦点を当てています。そこを知れば、自ずと現代文学やサブカルへも繋がることがわかっているからです。

わたしはフィクションや文芸に興味があるのではなく、常に書いてる人とその人の生きた時代や世界に興味があります。なので、物語も消費されるものというよりは、その時代が吐き出したひとつの化石ように思えていて、それを通して自分のことも他人のことも世の中のことも知ることのほうが重要です。

サン=テグジュペリの星の王子さまで、きつねが語ることばがあります。「小麦が金色に実るたびに、君の金色の髪を思い出す」。

人間はエピソード記憶が最も優れているそうですが、エピソード記憶とは想い出のこと。世界も人生もそれそのものでは単なる事象の蓄積で、その記録では何の意味もなさない。なのに、そこに人の意思や想い出が絡まるだけで、途端にひとつひとつが輝きを持ち、意味を持つようになる。

太宰治が探した東京八景。あれを知っているだけで、戸塚も荻窪も武蔵野も、単なる駅ではなくなる。ルームで流したmezhのreverieが脳裏をよぎり、ふと目尻に涙が溜まる。またそれを朗読依頼した方が今どうしてるか気になる。

そういうことが豊かさだと思うので、私は文学に傾倒し、それを通して世界や人と繋がります。