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その3

「熱帯」を読み終えた後、紹介してくれた友人に感想を伝える約束をしていた私は、読後の熱が冷めやらぬうちに感想文をしたためることにした。
ただ感想を伝えるというのもつまらなかったので、まるで自分が作中に出てくる登場人物になったかのようにこの本について語り、ついでに読んだことの無い人への紹介文にでもしてしまおうと思い立ち、小説風の文章をしたためることにした。
小説のような文章を書くのは初めてでとても苦労したのだが、それなりの出来にはなったのではないかと自負している。
その投稿を見た友人からもお褒めの言葉を頂き、少し得意げになったのも覚えている。

しかし、この投稿はその日の内に私の手違いによって消えることになる。
下書きなど何も残していなかった私は再度復元することも出来ず、只々呆然とスマートフォンの画面を眺めることしか出来なかった。
友人が読んだ後だったのは不幸中の幸いだったと思う。

この事を友人に報告し、「熱帯」の一部になろうとしたために消えることになったのだろうと冗談めかして話したところ、友人も同じように思ったと返答をくれた。

この時、私は「熱帯」という物語に飲み込まれたの感じたのだ。
虚構が現実に侵食するのを確かに感じたのである。
この出来事が付いて回ったことで、「熱帯」は私に強烈な読書体験をもたらしてくれた。
私の中で「熱帯」はまだ終わっていない。
そう思わせてくれたのだ。

最後に、何故私がこの様な長ったらしい紹介と体験談を書いたのかと言うと、それは只私の読書体験を誰かに聞いてもらいたかったからに他ならない。全く身勝手な話である。

けれども、自己完結で終わらせたくないと思う私の気持ちも理解してほしい。
もし世界の何処かに、この投稿を読んで「熱帯」を手にしようと思った人がいるならば、私の物語を、私の「熱帯」もそこに内包されればと思う。

そして、その方の「熱帯」という物語がまた次の人に紡がれていくのを願っている。

いつまでも物語が終わらないように。

#読書 #GRAVITY読書部