私の存在価値って何？日常の中の哲学的問いかけ

『小豆麹と、ちいさな笑顔』

ある日の午後、家族が何気なく見ていたテレビ番組の中で、「小豆麹（あずきこうじ）」という、甘さ控えめで体にもやさしい発酵食が紹介されていた。

「これ、作ってみてほしいなぁ」

そんな声が、テレビの音よりも大きく私の胸に届いた。
ふふ、やってみようか。ちょうど冷蔵庫には小豆が200g、そして乾燥の米麹もちょうど200g。運命のような、ぴったりの量だった。

さっそく、小豆をやさしく洗って、電気圧力鍋にかける。
白米の炊飯モードでスイッチを入れると、蓋の向こうでコトコトと小豆たちがふくらんでいく。

ピンが下がって炊きあがると、熱々の小豆と、そのゆで汁に分けた。
まだまだ蒸気が立ちのぼる。熱がこもっている小豆たちを、ふーふーと冷ましながら、私は温度計を取り出した。

「まだ熱いね、もうちょっと待とうか」

孫が近くで、「あずき？あんこ？」と聞きながら、小さな手で鍋の中をのぞいている。
「そうだよ。あんこじゃないけど、おいしいのができるよ」

60℃以下になったことを確認し、小豆に米麹を加える。
米麹がふわりと香る瞬間、まるで季節が変わったような不思議な感覚がした。

木べらで混ぜながら、小豆を少しずつつぶしていく。
「こうすると、発酵がうまくいくんだってさ」
ひとりごとのように言いながら、私は小豆と麹をなじませていった。

少しパサついていたので、ゆで汁を少しずつ戻しながら混ぜる。
今回は、思い切ってすべてのゆで汁を戻してみた。
艶やかで、なめらかな感触に仕上がっていく。

それを容器に移し、低温調理器にセット。
温度は60℃、時間は8時間。
蓋を閉じて、私はそっと手を合わせる。「美味しくなぁれ」

夜が明ける頃、容器の蓋をそっと開けると、ほんのりと甘く、優しい香りが立ち上った。
それはまるで、小豆が眠っている間に、静かに魔法をかけられたようだった。

朝ごはんのあと、2歳の孫が一口食べて「これ、あんこ！あんこ！」と笑った。
砂糖は一切使っていないのに、その口元には確かに、甘やかで幸せそうな表情が浮かんでいた。

家族のリクエストから始まったこの「小豆麹」作り。
作ってみたら、思っていたよりずっと簡単で、思っていたよりもずっと…あたたかい味がした。

わたしがしんでもかわりはいるもの？