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吉田賢太郎

吉田賢太郎

題名:分断された私と、ラグのある世界
​私の頭の中には、複数の「私」と、壊れた「時計」がある。
​一年前、脳の血管がはじけた。
次の一年、側頭葉が火花を散らし、世界がぐにゃりと歪んだ。
デジャヴ(既視感)が襲い、さっきまでいた場所が、知らない異郷に変わる。
それが「側頭葉てんかん」という、脳の嵐。
​嵐が去るたび、私は私を少しずつ失っていく。
昨日の記憶がない。さっき話した言葉が思い出せない。
耐えきれないほどの苦痛から逃げるため、私の心はバラバラに分かれた。
「解離」――それは、私が私であり続けるための、最後の、そして悲しい防衛本能。
​今の私は、何重もの不自由の中にいる。
​耳から入った言葉を、脳が処理し、指がメモを刻む。
そこに生まれる数秒の「ラグ」。
そのわずかな隙間に、心ない言葉が突き刺さる。
「わざとやってるの?」「やる気あるの?」
自分より弱い者を見つけて、マウンティングでしか自分を保てない大人たち。
彼らは知らない。
私が、いくつに分かれた自分を必死に繋ぎ止め、
「今、ここ」に踏みとどまろうとしている、その絶絶たる努力を。
​55歳。
末期がんのように「終わり」が見えるわけでもない。
ただ、静かに、確実に、自分という輪郭が削られていく。
再就職の扉は閉ざされ、助けを求めた制度の壁は冷たく低い。
​でも、君たちに伝えておきたい。
​世界には、目に見えない「ラグ」と戦っている人がいる。
一人の人間の中に、名前のない「誰か」を抱えて生きている人がいる。
それは「壊れている」んじゃない。
壊れそうな世界の中で、形を変えてでも生き抜こうとした証なんだ。
​効率やスピードが正義とされるこの教室で、
もし、誰かが止まって見えたなら。
もし、誰かが記憶の糸をたぐり寄せて、震えていたなら。
​どうか、その「ラグ」を笑わないで。
その人は今、脳内の嵐をやり過ごし、
ちぎれそうな自分を必死に縫い合わせている最中なのだから。
​私は今日も、iPhoneのメモに「私」を書き留める。
明日、また新しい「誰か」がこのページを開いたとき、
私がここにいたことを、絶望しながらも生きていたことを、見つけてもらうために。
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