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ゆう

ゆう

短編小説


言の葉

昔 人里離れた山の奥に
花の実らない木と
小さな滝があった

流るる水は穏やかに
一本の木を揺らしていた

風に吹かれ 雨に打たれ
太陽に照らされ あるがままに

そんなある日 茂みの奥で音がした
竹で作られた籠 溢れた山菜
地面に埋もれた頭 子供だ

石にでもつまずいたのだろう
体中 土だらけである

子供は突然 笑い出した
転んだ事が面白かったのだろう

不思議な子だな

突然 雷に打たれたかの様に
子供は こちらを見つめた

刀で風を切った様に
空間が静まり 水の音が響く

終わりは突然訪れた

『 綺麗、、、 』
喜びや感謝に似た感情
曇り無き 澄んだ瞳は
私を包み込んだ

気付けば空は橙色に
染まろうとしていた

その日から子供は
毎日 私を訪れた
必ず一礼して

礼儀正しい子である

毎回同じ石に座り
こちらを眺め
1人でに話していた
実に興味深い
話の数々であった

今日も あの者が訪れた
白髪が増えた頭は
ゆっくり一礼した

いつもの様に話していたが
ふと一本の木に近づき
落ちていた葉を拾った

それを両手に持ち
滝の側まで来た

荒い息を整える中で
一瞬だが こちらを見て
微笑んだ様に見えた

嬉しさを隠しきれない
子供の様に

ふと葉を口に付け目を閉じた
まるで私に聞かれない様に
秘密の話をするかの様に

まもなく沈黙が止んだ

澄んだ瞳は 嬉しそうな
悲しそうな 子供を
送り出す親の様に
その葉を私の元に
流した

葉は ゆっくりと流れ
やがて底に沈んだ

その日の一礼は
今までで1番長かった

数日後 一本の木は
ゆっくりと瞳を閉じ
眠りにつく様に葉を
枯らせた

あれからどれくらい
時が流れただろうな

今までと なにも変わらん
なのにこの空間は
何か欠けていた

空の澄んだ満月の夜
一匹の鶴が滝に訪れた

生き物が訪れるのは
珍しいことでは無い
だが どこか懐かしく
心が和らいだ

古き友人を迎え入れた様に

気付くと 鶴は私を見ていた
私は驚いた 鳥を正面から
見た事は無い これほど
美しいものなのだと

どこか懐かしい沈黙

風に身を任せ
運ばれた桜の葉が
沈黙の水に波紋を成す

『 なにを望む 』

真剣な眼差しで投げかけた
水面から顔を上げると
鶴は大きな龍へと姿を変えた

私は少し考えた末に
白いカラスへと姿を変え
竜の前へ歩み出た

『 愛したい 』

不思議であった
今まで私の価値など
考えた事は無かった
勿論 そのほかの存在も

だが あの子供だ そうだ
あの者が訪れてから
変わった 感謝をされ
それを当然の様に
受け取っていた

奇跡とも知らず

水面に映し出された私
迷う事なく素直な思いを
解き放った

龍は ゆっくり 頷き
空へと昇った

ふと水面に映ったのは
人間の私

滝であった私は16程の
女性になっていた

慣れぬ様子で山を降り
年月は流れた

そして1人の人間が
滝へ訪れた

長い白髪の老婆は一礼し
懐かしむ様にこちらを見た

一本の木の側の枯葉を取り
滝の側まで歩いてきた

どこか楽しそうだ

葉を口に付け目を閉じ
ゆっくりと水に流す

葉は流され やがて沈み
水の底の古い葉と重なった

老婆は顔を上げた
しわくちゃなその顔は
くったくの無い笑顔だった

どこからか鶴の声がした
仲間を迎え入れる様に

老婆は龍へと姿を変え
空へと昇っていった
満月の光の中へと
姿を消した

そして一本の木は花を付けた
目覚める その時を
待っていたかの様に

一斉に開かれた花は
満月の光に照らされ
美しく咲いていた

淡い紅色の花びらが
水面に大きな波紋を成す

小さな滝に花を咲かせるは

長い年月を経て成長し
実らす花の色は様々

その名を 『 江戸彼岸桜 』

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