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吉田賢太郎

吉田賢太郎

それは、固く閉ざされたペットボトルの蓋だった。
​力を込めても、指が滑るだけ。汗を滲ませ、歯を食いしばる。人間の本能は、抵抗には力で対抗せよと叫ぶ。腕の筋肉を固くし、手首をひねる。だが、それは力と力が真正面からぶつかり合う、ただの消耗戦に過ぎない。このやり方では、勝つか、あるいは負けて疲れ果てるかのどちらかだ。これを**「力」**と呼ぶ。筋肉が生み出す、直接的で、わかりやすい暴力だ。
​しかし、そこに一人の達人が現れた。
​達人は、その固く閉ざされた蓋を、まるで生き物のように見つめた。そして、力ではなく、**「技」**を使うのだと言った。
​合気道の達人ならば、こう教えるだろう。
​「その蓋の固さ(抵抗)は、あなたの力と対立している。だが、その抵抗を力でねじ伏せようとしてはいけない。むしろ、その抵抗の『流れ』を感じるのだ」
​達人はまず、手のひら全体で蓋を優しく包み込んだ。それはまるで、相手(蓋)と『会話』を始めるかのように、わずかな圧力の方向を探る動作だ。**力で押すのではなく、柔らかく触れる。**そして、手首ではなく、体の中心である腰をわずかにひねり、全身の力を指先に流し込む。円を描くように、螺旋の動きで。蓋はまるで、自ら開く道を見つけたかのように、静かに「プシュッ」と音を立てて、ゆるやかに回転した。
​詠春拳の達人ならば、こう教えるだろう。
​「蓋は、あなたとあなたの中心線上にある。力で押し合うのではなく、その『接点』に意識を集中させるのだ」
​達人は蓋に触れる指先に、わずかな圧力をかけた。それは相手の腕(抵抗)に『張り付く』ように、常に接触を保つ、あの**「黐手(ちーさお)」**の感覚だ。力で押すのではなく、蓋がどこに動こうとしているかを『聞き取る』。そして、蓋の抵抗が最も弱い一点を見つけ、そこを最短距離で突くように、まっすぐに、迷いなく力を伝える。抵抗の壁は、その瞬間に崩れ落ちた。
​どちらの達人も、蓋に勝ったわけではない。彼らは、蓋の持つ「抵抗」という力の本質を理解し、その力を利用し、あるいは無効化する**「技」**を駆使したのだ。
​力とは、肉体の暴力。技とは、知恵の結晶。
​真の強さとは、相手を力でねじ伏せることではない。固く閉ざされた蓋が、力を入れずとも開くように、相手の力を受け流し、利用し、最小限のエネルギーで最大の効果を生み出すことなのだ。それは、武道だけでなく、人生のあらゆる場面で通用する、本質を突いた哲学なのである。
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