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あお🫧
エリアメールが鳴る。
胸の奥が小さく跳ねた。
前の川は、もう境界線を忘れている。
道路は茶色に濁った水に沈み、
濁流が生きもののように身をくねらせて、
夏野菜のプランターをさらっていく。
青いトマトがプランターごと、ゆらり、消えていった。
雷が近くで鳴った。
白い閃光が、空を裂く。
雨は、地鳴りのように屋根を叩く。
カーテンの向こう、世界が
みるみる変わってゆく。
──ガチャガチャ。
玄関で音。
慌てて駆け寄ると、
雨合羽に覆われた妹と、その家族。
フードの端から雫がぽたぽた落ち、
まつ毛にも小さな水滴が光っていた。
冷たい水の匂いをまとって、
着の身着のまま、びしょ濡れで立っていた。
近所の人に「避難したほうがいい」と言われ、
走ってきたのだという。
タオルの温かさを押しつけ、
着替えを渡す。
室内は、いつもの静けさを忘れ、
人の声と足音であふれる。
警報はやまない。
雨はまだ、屋根を叩き続けている。
それでも、不安は少しだけ和らぐ。
リビングに布団を敷き、
みんなで雑魚寝をする。
「たのしいね」と、めいっこ。
笑顔が、部屋の空気をやわらかくする。
朝になっても、
雨は同じ音で降り続けていた。
川はまだ、濁った声で叫んでいる。
めいっこと並び、窓越しに川を見つめる。
窓の隙間から入りこんだ湿った空気が、頬を冷やす。
「ぽにょ、おるかもね」
「いるかもね」
冷蔵庫はほとんど空っぽ。
ごはんを炊く音が、台所に広がる。
湯気に混ざる米の匂い。
卵焼き、にゅうめん、昨日のたこ焼き。
寄せ集めた朝食。
けれど、湯気ごしの笑顔を見ていると、
それは立派なごちそうに思えた。
五合分のおにぎりが、勢いよく消えていく。
ようやく腰をおろすと、
小さなお皿に、おにぎりと卵焼きひとつ。
「あおの分、とっとったよ」
「これだけ?足りんかも」
「私のあげよっか?」
笑いながら交わすやりとり。
窓の外は、まだ白い雨。
サイレンが、時おり遠くを横切る。

わたし日記~徒然帖~
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今日は早く帰って、明日に備える所存。
今日も暑いですね……
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お疲れさま[照れる]大変な中だろうけどつかの間温かい気持ちになれるような時間⭐️ 妹さん心強いだろうね✨✨
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外の暗い背景の雨でも家族団欒の明るい食事風景を見るとほっこりします[ほっとする]
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緊迫した中で「ぽにょ」というワードを出して、場を少しでも和ませてくれる存在。すごく大きいです[照れる]