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ミルトン

ミルトン

徘徊の夜     30首

自販機の前でコーヒー飲み終えてパジャマのままで海を見にゆく

夜勤へと向かう途中に落ちていた茄子をポストの頭にのせる

矢野さんのおむつを替える薄闇に始発電車の音を聴きつつ

徘徊の内村さんをひきとめてけあせんたで見ている日の出

もし母が生きていたなら僕のいるこのセンターに入所させたか

ふるさとの母の葬儀を終えた夜はきみの乳房にさわれなかった

前向きという暴力を振りかざすきみの背中を抱き締めている

真昼間のケアセンターで関さんの蜘蛛の刺青のせなかを流す

夕飯の時間にきみと待ちあわせ千葉刑務所の壁にもたれて

周さんにいきなりお茶をかけられる孔子に免じ許してやるよ

梅ちゃんの誕生日だねおめでとう(だれも見舞いに来てくれないね)

もういちどひとの夫になることを恐れ映画の半券捨てる

妊娠はしてなかったとつぶやいてきみはピンクのブラウスを脱ぐ

腰痛をしばし忘れる冷蔵庫の卵すべてに顔が描かれて

喰われたくなくて雌から逃げたのか布団のうえにかまきりが来た

ありがとうだけしか言えぬ志田さんに触れて何度も言わせてしまう

さっきまで別れ話で泣いていたきみが笑って肉に喰いつく

ほら見てときみが笑顔で指さした交尾しているミヤマカミキリ

ごめんねがいつめ言えないからっぽの風呂で『楢山節考』を読む

うずくまる母の背中のかたちしてテレビが薮に捨てられている

震えつつおかゆをこぼす掘さんのかつて女優をしていた瞳

「わたしはね遺産いっぱいあるからねあげる」梅ちゃん皆に言ってる

梅ちゃんが雨を見ている新しいカーテンに身をくるませながら

この先の信号がもし青ならば流されてまた結婚となる  

夜勤終えきみに抱きつく「老人の糞をいじった手で触れないで

莫大な遺産をくれる約束をした梅ちゃんが転所してゆく

お前まで俺を嫌うか公園のベンチの札に「さわらないでね」

終の場へ転所してゆく梅ちゃんのピンクのパジャマ棄てられている

泣きかたをわすれたらしい屋上にあがって遠い雷を聴く

くるくると指をまわしてつかまえたトンボをはなつ梅ちゃんの部屋
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