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アキラ
観たことのない演目、しかも開演時間が迫っていた。
お金の無い僕は当日券売り場に特攻するか、それとも見なかったことにして立ち去るか逡巡していた。
こういう時の僕は本当に優柔不断で、ああでもないこうでもないと不毛な脳内シミュレーションを繰り返し、徒に時間を失う癖がある。
秋晴れを映した疏水を見たり平安神宮の鳥居を見たり、気を散らしながら煮詰まったところ、これもいつものパターンながら結局有り金を持って特攻することに決め、受付に向かって挙動不審な歩みを進めると見えたのは完売の文字。
これは最悪なパターンだ!とシヲリながら会館を後にしようとしたところ、後ろから「のうのう」と女性の声。
振り返ると、前シテと思しき恐ろしく小さい老婦人が忽然と現れ、ツレが来られなくなったからよろしければチケット召され候へと、プラチナチケットを目の前に差し出す。
なんということであろう、僕は五体投地しながら前シテからチケットを受け取ると、いざなわれて観世会館の二階席に向かった。
かくして全然知らないお婆ちゃんと並んで観たのが、師匠の「松山天狗」であった。
「松山天狗」は讃岐に流され悲憤のうちに亡くなった崇徳院の御陵を訪ねた西行のもとに院の亡霊が現れ、手向けの歌に感激した旨を伝え、舞楽を舞うという五番目のお能。
舞ううちにいにしえの屈辱が思い出され、大魔縁の姿を現した崇徳院の前に院をいつく天狗達が現れ、都の逆臣どもを悉く始末しようと慰め、満足した院は空を飛び天狗を引き連れて消えて行く。
始まるといつものように、他の先生方とは全く違う能の時間に飲み込まれたが、崇徳院の舞から天狗の出現、最後の引っ込みまで観て僕は本当にノックアウトされてしまい、囃子方地謡が舞台を去ってもしばらく立ち上がれなかった。
横目で見ると前シテもしばらく息が出来なかったみたいで、「はぁぁ〜」と息をついていた。
お歳もあり心配にもなったが、僕らはようやく「凄かったですね」と顔を合わせ笑うと、立ち上がりフラフラ階段を降り外へ。
「御礼を」と申し上げたところ、前シテは「いいのいいのよ」と言い捨てて、掻き消すように大鳥居の陰に消えて行った。
後シテは出て来なかった、それが僕の「松山天狗」の思い出。

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ねこた

もしも

澤

貝塚し

イーグ
終戦とか言って申し訳ない

おでん
今日は声担当が本当に好き勝手やってましたね!
会話しか入ってこなくて、笑っちゃいました!
ルイ姉はぜひまたラジコンになってください!
おつバイバイ!(?)
#たかねの見物

たいす

まき_CY@
トトロを捕まえた時のメイちゃんみたいな足の裏になってた

あい

たまき
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