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アクア−Devil
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**タイトル:確かな薬**
2032年、梅雨の終わりの大阪。
淀川沿いの古い団地、8階の角部屋で、翔太(32)は今日も天井を見つめていた。
仕事は3年前にAIに取られた。
最初は「新しいスキル習得支援プログラム」に通ったけど、結局どのコースも「次のアップデートで陳腐化します」の一言で終わった。
今は月7万円の「生存保障給付」――通称ベーシックインカム――だけで暮らしている。
家賃と食費と、光熱費をギリギリ払って、残りはタバコと安い缶ビールに消える。
翔太の母は言う。
「そんな生活でええんか? 体壊すで」
でも翔太は返す言葉がない。
体はもう壊れかけている。
眠れない夜が続き、朝になると胸が締め付けられるように苦しい。
心療内科に行くと、医師はため息まじりに処方箋を出す。
「これ飲んで、少し頭を冷やしてください」
薬局の袋にはいつも同じ言葉が印刷されている。
**「確かな薬をお届けします」**
でも翔太には、それが嘘にしか思えなかった。
飲んでも飲んでも、胸の重さは消えない。
消えるのは、ただ時間と記憶の輪郭だけだ。
ある雨の夜、翔太は団地の屋上へ上がった。
手すりに寄りかかり、濁った川を見下ろす。
スマホには、母からの未読LINEが溜まっている。
「翔太、ご飯食べた?」
「無理せんといてな」
「また話そうや」
翔太は画面をロックした。
代わりに、古いブラウザを開く。
検索窓に打ち込んだのは、たった一言。
**ベーシックインカム 効果**
何千もの記事。
「労働意欲が低下する」「犯罪率が下がった」「起業が増えた」「メンタルヘルスが改善した」
数字とグラフと、相反する結論ばかり。
その中に、ひとつの小さなスレッドがあった。
匿名掲示板の片隅。
> 「俺はBIもらって初めて、朝起きるのが怖くなくなった」
> 「薬より効いたわ。確かな薬って、結局金やったんやな」
翔太は指を止めた。
雨粒が画面に落ちて、文字が滲む。
そのとき、背後でドアが開く音がした。
振り返ると、隣の部屋の婆ちゃんが立っていた。
いつも黄色いレインコートを着た、78歳の佐藤さん。
「翔太くん、またここで雨に打たれてんの?」
「……すみません」
佐藤さんは傘も差さずに近づいてきた。
小さなビニール袋を差し出す。
「これ、うちの畑で採れたきゅうり。
塩もみして食べな。体にええで」
翔太は受け取った。
冷たくて、土の匂いがした。
佐藤さんは隣に並んで、手すりにもたれた。
「私も昔、夫がリストラされてから、毎日薬飲んでたわ。
でもな、薬は『確かな』もんやないねん。
『確かな』のは、誰かが『生きててええよ』って言ってくれることや」
翔太はきゅうりの袋を握りしめた。
「…ベーシックインカムって、それのことですか?」
佐藤さんは小さく笑った。
「ちゃうよ。あれはただの道具や。
大事なのは、その道具で何ができるかや。
誰かと飯食うとか、雨ん中話すとか、
きゅうり一本でも分けることとか……そういうんが、確かな薬になるんやないかな」
雨が少し弱まった。
翔太は、初めて母のLINEを開いた。
返信を打つ指が、少しだけ震えなかった。
「今度、飯食いに行こうか」
送信。
佐藤さんが肩を叩いた。
「ほら、降りよ。風邪引くで」
二人は並んで階段を下りた。
翔太の手には、まだきゅうりの袋が残っていた。
月7万円では、確かに豪華な暮らしはできない。
でも、その夜、翔太は初めて思った。
――これで、生きていけるかもしれない。
少なくとも、今夜だけは。
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