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アクア−Devil

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**窓を開けるのが怖い**

税金の督促状が、もう三通目だった。

最初は「放置してればそのうちなんとかなるだろ」と思っていた。
二通目はちょっと焦ったけど、まだ「まあ来月には…」と先延ばしできた。
でも三通目。赤い字でデカデカと「最終通告」の四文字。
そこにはもう、穏やかな言い回しはほとんど残っていなかった。

夜中の2時。
部屋の電気は消したまま。
カーテンも閉めっぱなし。
スマホの通知も全部オフ。
まるで自分が今この部屋に存在していないかのように息を潜めている。

そして……窓。

あの窓が、最近やけに怖い。

別に外から誰かが見ているわけじゃない。
監視カメラがあるわけでもない。
ただ、窓の向こうに「現実」が待っている気がするのだ。

督促状を出した誰か。
差し押さえに来るかもしれない職員。
近所で「あの部屋、ヤバいらしいよ」と噂してるかもしれない人たち。
全部、窓の向こう側にいる。

窓を開けた瞬間
涼しい夜風と一緒に
「あ、あなたまだ生きてたんですね」
という、世間全体の冷たい声が流れ込んでくるような気がしてならない。

だから開けられない。

開けたら終わりだ。
開けたら、もう言い訳も先延ばしも許されない世界に強制的に引きずり出される。
開けたら、自分が「滞納者」というレッテルを貼られた、みじめな人間であることを、はっきりと自分で認めざるを得なくなる。

時計の針は3時を回った。

「……はぁ」

小さく息を吐いて、俺はついに立ち上がった。

カーテンの端をそっとつかむ。
指先が震えている。

ゆっくり。
本当にゆっくり。

5センチだけ、カーテンを横にずらした。

外はまだ真っ暗だった。
街灯がぼんやり光っているだけ。

誰もいない。

督促状を出した人も、差し押さえに来る人も、噂してる人も、
今この瞬間は、ここにはいない。

ただの夜だった。

「……あ」

なんだ。
意外と、普通の夜じゃん。

俺は少しだけ、肩の力を抜いた。

窓の鍵に指をかける。
まだ、開ける勇気はない。
でも、せめて鍵だけは、触れるようになった。

たぶん明日も、明後日も、
すぐに開けられるようにはならないだろう。

でも、少しずつ。

カーテンを5センチずらすことから
鍵に触れることから
そしていつか——
本当に窓を開けて、夜風を胸いっぱいに吸い込む日が来るかもしれない。

その日が来たら、
俺はもう「滞納者」だけの自分じゃなくなるかもしれない。

まだ、終わってない。

窓の向こうの現実は確かに怖い。
でも今夜は、まだ誰も来てない。

それだけで、ちょっとだけ、息ができた。

(おわり)
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