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きゃべまる
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カゲナ
1アリア過去編 ――絶望の少女と、歌の記憶
その子は、いつも下を向いていた。
名前は、サクラン。
小さな町で、
誰にも近づかれず、
誰にも触れられずに生きていた。
夜になると、少女の影は歪む。
胸の奥から、低い声が響く。
悪魔が、宿っていた。
「……私なんか、いなくなればいい」
それが、少女の口癖だった。
母親はいない。
父親もいない。
捨てられた子だった。
人々は距離を取り、
冷たい目で見て、
恐れるだけで、助けようとはしなかった。
サクランの瞳は、
生きているのに、
もう何も映していない“絶望の色”をしていた。
――その日、
ひとりのエルフが町を訪れた。
アリア。
彼女は、怯える少女の前に膝をつき、
何も聞かず、何も責めず、
ただ静かに歌った。
夜の空気がやわらぎ、
悪魔は、歌に包まれて眠りについた。
それが、すべての始まりだった。
アリアは町に残り、
サクランと暮らした。
歌を教え、
空の色を教え、
花の名前を教えた。
「やりたいこと、やっていいんだよ」
初めて聞いたその言葉に、
サクランは、泣いた。
少しずつ、
少しずつ。
サクランの目に、光が戻っていった。
悪魔が出てくる夜も、
アリアと一緒なら怖くなかった。
歌えば、
想いを込めれば、
悪魔は沈む。
サクランは、
自分でも抑えられることを知った。
――だが、
ある日。
アリアが、町を離れた。
ほんの短い用事のはずだった。
その夜、
サクランの心に、
ひとつの“隙”が生まれた。
「……私のせいで、みんなが苦しんでる」
その声に、
悪魔が笑った。
悪魔が、身体を覆い、
理性が、引き裂かれる。
サクランは――
悪魔になった。
叫び声。
血の匂い。
逃げ惑う人々。
止まらなかった。
誰も、止められなかった。
無差別に、
命を奪い、
身体を壊し、
街は――沈黙した。
そのときのサクランには、もう“自分”という感覚は残っていなかった。
逃げた者と、
殺された者だけが残り、
街には、誰もいなくなった。
アリアが戻ったとき、
すべては終わっていた。
悪魔は消え、
人の姿に戻ったサクランが、
瓦礫の中に倒れていた。
目を開いた瞬間、
サクランは、理解してしまった。
自分がしたことを。
殺した感触。
折れた骨の感覚。
命が消える瞬間。
すべてが、
鮮明すぎるほど、残っていた。
「ああああああああ――ッ!!」
壊れたように叫び、
喉が裂けるほど泣き、
サクランは、気を失った。
アリアは、
その小さな身体を抱きしめ、
震える声で歌った。
記憶を、封じる歌。
すべてを消すためじゃない。
“今すぐ壊れてしまわないため”の歌だった。
目を覚ましたサクランは、
静かだった。
何が起きたのか、
完全には思い出せない。
けれど、
街が空っぽである理由だけは、
自分が“何かをしてしまった”のだと、理解してしまった。
夜、
ひとりになったサクランは、
すべてに気づいた。
アリアが、
どれほどの覚悟で歌ったのか。
自分が、
どれほど重い存在なのか。
「……一緒にいたら、迷惑になる」
その思いだけが、残った。
だから――
彼女は、去った。
何も言わず、
何も残さず。
アリアを守るために。
アリアは、
その背中を追わなかった。
追えなかった。
あの歌が、
“完全な救いではなかった”と
知っていたから。
だから、
アリアは旅に出た。
もう一度、
サクランを救うために。
今度こそ、
歌だけじゃなく――
未来ごと、抱きしめるために。
彼女の旅は、
その少女から、始まった。
サクランを見失った日から、
アリアは同じ夢を見るようになった。
壊れた街。
泣き叫ぶ声。
そして――
歌が、届かなかった瞬間。
完全な救いなど、なかった。
歌は、命を繋ぐことはできても、
未来までは保証してくれない。
それでも、
歌うことをやめる理由にはならなかった。
アリアは、旅に出た。
もう一度、
あの少女に会うために。
今度こそ、
「生きていていい」と、
胸を張って言えるようになるために。
そうして、
季節をいくつも越えた。
町を渡り、
国を越え、
名を名乗らず、帰る場所も持たず、
ただ世界を歩き続けた。
⸻
その女性――アリアは、旅人だった。
名を名乗ることはなく、
帰る場所も決めず、
ただ世界を歩いてきた。
季節が変わるたびに景色も変わり、
出会う人も入れ替わる。
それでも彼女は立ち止まらず、
今日を生き、明日へ進んできた。
けれど――
その町でだけ、彼女は足を止めた。
理由は特別なものではない。
冬の空気に混じる甘い香り。
通りに灯り始めた小さな光。
クリスマスが、近づいていたからだ。
白い息を吐きながら、
アリアは町を見渡した。
忙しなく行き交う人々の顔には、
どこか疲れと、
それでも捨てきれない期待が混ざっている。
――あの日の、サクランの目と、少し似ていた。
「特別な日に、
みんなが笑ってくれたらいいなって思って」
それは、独り言のような言葉だった。
けれど、その思いは確かに彼女の胸にあった。
笑顔は、
絶望を消すことはできない。
けれど、
絶望に呑み込まれるのを、少しだけ遅らせることはできる。
アリアは、そう知っていた。
だから彼女は、
無料の小さなイベントを開くことを決めた。
誰かに頼まれたわけでもない。
見返りを求めたわけでもない。
ただ、
あのとき救えなかった未来を、
ほんの少しでも、
別の形で繋ぎたかった。
歌をうたい、
古い布を切って飾りを作り、
夜道を照らす灯りを一本ずつ並べていく。
冷たい風に指先を赤くしながらも、
アリアは黙々と作業を続けた。
――すべてを、ひとりで。
誰かに手を借りなかったのは、意地ではなかった。
彼女は、信じていた。
笑っていれば、
笑わせることができれば、
きっと辛いことも、ほんの少し忘れられる――そう。
準備の合間には、必ず短い休憩をとった。
それは彼女にとって、唯一「息をする時間」だった。
木箱に腰掛けると、子どもたちが集まってくる。
町に住む人々も、自然と声をかけてくる。
今年あった、ささやかな嬉しい出来事。
胸の奥に沈めてきた悲しみ。
誰にも言えなかった想い。
彼女は遮らず、否定せず、ただ聞いた。
そして、静かに笑った。
その笑顔は、派手ではない。
けれど、不思議と心を緩める力があった。
気づけば、その笑顔は町に染み込むように広がっていった。
――だが、準備は想像以上に過酷だった。
夜は短く、朝は早い。
眠る時間は削られ、喉は乾き、声は次第に枯れていく。
足取りは重くなり、階段を上るだけで息が切れる。
それでも彼女は、手を止めなかった。
残り三日。
身体が、少しずつ言うことをきかなくなり始めた。
立ち上がろうとした瞬間、視界がふっと揺れる。
世界が、遠のく。
「……まだ、大丈夫」
そう呟いた声は、冬の空気に溶けて消えた。
誰の耳にも届かない。
ただ――精霊たちには、見えていた。
彼女が、どれほど無理をしているのか。
どれほど、誰かの笑顔のためだけに、自分を削っているのか。
風の流れも、灯りの揺らぎも、
すべてを知る小さな存在たちは、静かに見守っていた。
そして、その視線の先に、ひとつの影があった。
顔の見えない存在。
輪郭だけが淡く光り、そこに立っている。
――精霊王。
彼は何も語らなかった。
だが、理解していた。
かつて自分も、世界のために戦い、
すべてを失った存在だったから。
力を誇るためではなく、
守るために動く者の姿を、よく知っていた。
精霊王は、静かに力を貸した。
倒れそうだった身体に、ほんのわずかな温もりを。
消えかけていた灯りに、もう一度、確かな光を。
それは、奇跡と呼ぶほどのものではない。
世界を変える力でもない。
けれど、彼女が立ち上がるには――
それで十分だった。
残り三日。
彼女は、もう一度笑う。
誰かのために。
そして、見えない誰かに見守られながら。
クリスマスの夜は――
まだ、これからだった。
そう思えたのは、
ほんの一瞬、世界がやさしくなった気がしたからかもしれない。
そんな日々を重ねるうちに、
不思議な変化が起きはじめた。
気づけば、精霊たちが自然と集まってくるようになったのだ。
風の精霊が髪を揺らし、
光の精霊が夜道をやさしく照らす。
小さな存在たちは、
まるでこの時間そのものを楽しむかのように、くすくすと笑っていた。
理由は分からなかった。
けれど、嫌な感じはしなかった。
むしろ、胸の奥が少しだけ温かくなる。
そんなある日のこと。
準備の手を止め、深く息をついたとき――
ひとりの精霊が、彼女の前に舞い降りてきた。
「ねえ。紹介したい人がいるの」
その言葉とともに、空気が静かに変わる。
精霊たちが道を開くように左右へ分かれ、
その奥から、ひとつの影がゆっくりと姿を現した。
顔の見えない存在。
輪郭だけが淡く光り、
目も、口も、表情もはっきりとは見えない。
それなのに――
そこに“誰かがいる”ことだけは、確かに分かった。
――精霊王。
名前を知らなくても、
そう呼ぶしかない存在だった。
言葉はなかった。
けれど、不思議と怖くはない。
むしろ、胸の奥に静かな安心感が広がっていく。
「……大丈夫だよ」
誰の声でもないはずなのに、
そう伝えられた気がした。
手の震えが止まった。
彼女は、ただ立ち尽くしていた。
この出会いが、これから何かを変えていくことを――
まだ、知らない


𝑨𝒌𝒂𝒓𝒊🍭🪼ᩚ👑
見る人も減るから何か嫌で
解除した笑笑

しふぉん❄
求→星粒
呪いの日本人形→1000星粒 即決


sasa

みずひこ
色々不愉快にさせてしまった人、皆んな女性
来年は失敗を糧にボチボチグラしたい
今までお世話になりました、ありがとうさよなら
浪漫飛行
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じゃあなんで描いてるんだって話なんですが、もう習慣だからなんだよな

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疲れた疲れた(、._. )、

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