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アクア−Devil

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信頼の眼差し
新米の医師として、私は常に緊張感の中にいた。特に、患者さんとの初めての出会いは、私にとって真剣勝負だった。

「初めまして、〇〇です。今日から担当させていただきます。」

そう言って診察室に入ってくる患者さんを、私はつぶさに観察した。顔色はどうか、話し方は、目線はどこを向いているか。些細な仕草から、患者さんの性格や、病状に対する受け止め方を読み取ろうとした。既往歴や現在の症状を尋ねながらも、その言葉の裏にある本音や、隠された不安を探る。患者さん自身の情報だけでなく、付き添いの家族の様子も観察した。家族間の関係性や、病気に対する理解度も、治療方針を立てる上で重要な情報になり得るからだ。

特に、治療に対して消極的な姿勢を見せる患者さんや、病状の説明に納得していない様子の患者さんに対しては、より慎重に、そして徹底的に、その動向や考え方を観察した。彼らが何を不安に思い、何を求めているのか。言葉にならないメッセージを読み解くために、私はまるで探偵のように、五感を研ぎ澄ませていた。

時間が育む信頼
しかし、一度治療が始まり、患者さんと長い付き合いになってくると、私の接し方は大きく変わっていく。最初のような「観察」の姿勢は、徐々に「信頼」へと変わっていくのだ。

私が担当する患者さんの中に、Aさんという方がいる。彼は難病を抱え、もう何年も通院と入退院を繰り返している。初めてAさんと会った時、私は彼の細かな表情の変化や、言葉の選び方から、病気への諦めと、どこか他人を寄せ付けない壁を感じ取った。だから、最初は慎重に、言葉を選び、説明を重ねた。

しかし、幾度となく面談を重ね、Aさんの病状の波を共に乗り越えていく中で、私は彼が持つ内面の強さや、家族への深い愛情を知ることになった。彼の言葉の端々から、表面的な諦めとは裏腹に、生きようとする強い意志が感じられるようになったのだ。

今では、Aさんが診察室に入ってくるなり、私は彼の顔を見ただけで、体調が良いのか悪いのか、だいたいの見当がつく。彼の言葉に耳を傾ける時も、以前のように言葉の裏を探ることはもうない。彼の言葉を、そのまま素直に受け止めることができるようになった。

「先生、最近、ちょっと食欲が落ちちゃってね。」

Aさんがそう言えば、私はすぐに具体的な対策を考える。無理に理由を深掘りすることなく、彼の言葉を信じ、必要な医療を提供する。それは、彼が自分の体調を最もよく理解していると、私が信頼しているからだ。

もちろん、医療の現場では、常に客観的なデータと冷静な判断が求められる。しかし、それと同じくらい、患者さんとの間に築かれる人間的な信頼関係が、治療の成果を左右すると私は信じている。

知り合ったばかりの頃は、患者さんの動向や考え方をつぶさに観察し、情報を集めることに力を入れる。だが、付き合いが長くなり、互いを深く理解し合えるようになったら、私は迷わず、彼らを信頼する方に全力を注ぐ。それが、私が目指す医療であり、患者さんと共に歩むための、最も大切な道だと確信している。
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