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柚𐂂
あまりに暗い中学時代にようやく出口が見え始めたのが中3の夏ごろだった
受験準備が本格化して皆勉強に本腰を入れ始めるなか、それどころではない私はなかなか始められなかった
家に帰れば、勉強しろ勉強しろ、と言われるので意味もなく教室に居残った。習い事の時間ギリギリまで居座った
放課後の教室には私をいじめる人もいないので平和だった。いつもは縮こまって眺めている景色を我が物のように悠々と眺めて歩き回って黒板に落書きをしたり、いじめっ子のものをゴミ箱に入れてみたり、窓を開閉したりした
私が残っていることに担任(中2のときとは別の先生)は気づいていたらしい
ある日、いつもはすぐに職員室に行く担任が教室に留まって、話しかけてきた
「帰らんのか」
「帰りたくないんです」
「宿題は?」
「帰ってからします」
「〇〇ってテニス習ってたよな?」
唐突な質問にどう返していいのかわからず首を傾げた。先生はそのまま続ける
「俺もな、テニスできるんやで。ラリーしよ」
「え、校庭行きたくないです」
「ちゃうよ。ここでや」
「は?」
「教室で!エアテニスや!ほら早くラケット持って。俺から行くぞ!ほれ!」
存外綺麗なフォームで担任がサーブを打つ真似をする。よくわからないまま勢いにのまれて私はレシーブのフリをする
「いいねえ」と担任はにこにこしながら打ち返してくる。きっと少し高いボール。ボレーで返す
そんな感じで、たまにかけ声を発する以外は無言で見えない球のラリーを続けた
私が帰る時間になったら、担任が球をラケットで掬って手に乗せるような動作をしながら
「ばり上手いやん!習ってるだけあるな!明日もしよな!」と言った
よくわからなかったが、その言葉通り、翌日もその翌日も担任とエアテニスをした
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めちゃ良い先生[大泣き]
つぐみ
多感な時期のこの経験はどれだけ辛くどれだけ長く感じただろう。 放課後の教室でひとり窓を開ける柚ちゃんの後ろ姿が目に浮かんで泣けてしまう。 この文章の中に入っていって一緒にいじめっ子の物をごみ箱に放り投げてやりたい! 甘いジュースとお菓子を挟んで本の話をしに行きたい思った。 この先生と出会えてよかったですね! 心底ホッとしました。
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この人こそ「先生」やわ。 先に生まれただけの人じゃないね。 なんか、俺が嬉しくなる。