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西門佳祐
部室の裏を下ると小さな商店があり、そこは「下店(したみせ)」と呼ばれ、運動部員たちの行きつけの店だ。1年の頃から日々先輩の指令で部室と往復していた。2年になりパシリも卒業かと思っていた矢先の出来事。
ある日3年のK先輩から「おいS、焼きなな買ってこい」という指令が。「焼きなな」は当時70円だったカップ焼きそばの略称。お湯を入れて麺をほぐしソースをかけるという通常のカップ焼きそば。1年生のS君は一見身体も小さく大人しい感じ。でも物おじせずいつも自然体な少年だった。S君はさっと金網を乗り越えて出かけたが、しばらくたっても帰って来ない。通常なら5分もすれば帰ってくるのに…。「おい、ちょっと見てこい」とK先輩から僕に指令が下り、金網をこえてS君を迎えに行った。店に入るとテーブルの上に「焼きなな」を置いたまま、座っているS君。その視線の先にはテレビがあり、ちょうど水戸のご老公様が悪人たちをこらしめようとするシーン。
こいつマジカよ!
「おい、S!K先輩待ってるぞ!」と声をかけると、S君は「あ、お湯捨てなきゃ」と慌てた風もなくお湯を切り、フタをはぎ、ソースをかけて混ぜた。そこにはぶよぶよになった麺が冷めた状態でグッタリと横たわったような状態。んー、どうしたものかと思いながらも、S君と部室に戻ってそれをK先輩に差し出した。
「先輩すみません。こんなになってしまいました!」
「なんじゃこの焼きなな!麺がのびまくっとるやんけ!これ食えるんか⁈」
1年の失態は2年の責任!このまま怒りの制裁が僕にあるのかと思いきや、K先輩はいかにも不味そうなその「焼きなな」を食べ始めた。
え?あんたそれ食べるの???マジカよ!
「ったくS。気をつけろよ」食べながらそう言うK先輩は、怒ってる風でもなくS君に苦笑いといった感じ。S君は「すみませんでした~」と軽く頭を下げただけで許された。隣のT先輩は他人事のように笑ってたけど、T先輩だったらめちゃ怒られてたに違いない。S君のどこか憎めない天然な雰囲気に、『こいつは買い出しに使えない』と暗黙の了解ができ、以降S君が下店に走らされることはなかった。
でもすっかりのびて冷めた「焼きなな」を食べたK先輩の優しさというか器の大きさにも驚いた。単に食べ物を粗末にしない人だったのかも?
そんな懐かしい思い出。
コメント
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ハット

やきそ

杏奈

٩(メラ

おたこ

るぅ
いっぱい甘やかしてほしいですよ!

✼••
キャラの名前を出しただけでちゃんと世界観と口調を割と原作に近いものを出してくれる。多分1番求める展開を持ってきてくれる。

可愛い
#ダウン症 #21トリソミー

メスガ

きちち
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関連検索ワード

nico
私が高校の時は、前店と裏店でした。 あるんですね、それぞれ呼び方が。
ひかり
ほっこりしました。学生時代の思い出ってなんだか宝物✨
正露丸🌱
K先輩好きだなぁ。
𝔪𝔦𝔦★
うんうん[照れる] 西門さんのこうゆう投稿珍しいな[照れる]
みぃ📷
それがSくんの戦略だったらすごいですね笑