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きつね

きつね

#花彩命の庭

少女の胸元で、淡く輝くペンダントが小さく脈打った。まるで心臓みたいに、一定のリズムで光っている。

「……行け、ってことか」

 誰に言うでもなく、少女は呟いた。

 光の森の奥へ進むほど、空気が澄んでいく。風が触れた葉は音を立てず、代わりに淡い光の粒をこぼした。足元の苔は柔らかく、踏むたびに小さな星が散るようにきらめく。

 やがて視界がひらけた。

 そこには、巨大な“光の樹”が立っていた。幹は夜空みたいに深い紺色で、枝先には朝焼けの色をした花が咲き誇っている。花からこぼれる光が、雨のように静かに降り注いでいた。

 ペンダントが、強く光った。

 少女が一歩踏み出した、その瞬間——

「……やっと来たか」

 背後から、低く澄んだ声が響いた。

 振り返ると、そこにいたのは不思議な少年だった。銀色の髪、透き通るような瞳。森の光を映したその姿は、現実より少しだけ遠い存在に見える。

「君は……?」

「この森の“境界”だ。名前は……そうだな、まだいらない」

 少年はそう言って、光の樹へと視線を向けた。

「あの樹が、この森の心臓だ。壊れかけている。お前のペンダントは、その“欠片”。……選ばれたんだ」

「選ばれた……?」

 少女の胸が、少しだけ苦しくなった。

「望んだわけじゃない。でも——」

 彼女はペンダントをぎゅっと握りしめ、光の樹を見つめた。

「放っておくほうが、ずっと嫌」

 その答えに、少年はわずかに目を細めた。

「……強いな。じゃあ行くぞ。ここから先は、もう“ただの森”じゃない」

 光の樹へ続く道が、ゆっくりと浮かび上がる。光で編まれた階段のように、宙へと続いていた。

 少女は深呼吸を一つして、最初の一歩を踏み出す。

 その瞬間、森のすべての光が、彼女に向かって瞬いた——。
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