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きつね

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#花彩命の庭

『ひかりの森に立つ少女』

その森は、朝になると光が花の形で降ってくる。
空から落ちるのは雨じゃない。
淡い金色や、透きとおった青、やさしい桃色のひかり。

少女は、その中に立っていた。

白いワンピースのすそを、風がそっと揺らす。
足元には小さな花が咲き乱れ、羽のある生き物たちが音もなく飛び交っている。
鳥のさえずりは、歌みたいで、森全体が目を覚ましていく。

少女は、目を閉じて深呼吸した。

――この森は、生きている。

木々はただ立っているんじゃない。
光を集めて、空気に溶かして、世界をやさしく保っている。

少女は、森の奥へと歩き出す。
目指すのは、“ひかりの泉”と呼ばれる場所。

そこには、願いをひとつ、そっと受け取ってくれる水があるという。

途中、透明な羽を持つ生き物が、少女の肩にとまった。
ことばを話さない代わりに、心でなにかを伝えてくる。

――こわくない?

少女は、やさしく微笑んで首を振った。

「だいじょうぶ。……わたし、この森が好きだから」

やがて、木々の向こうがひらけてくる。
泉は、想像よりも小さかった。

でも、水面には空の色が全部映っている。
朝の光も、森の影も、少女の姿も。

少女は、胸に手を当てる。
そうして、そっと泉に語りかけた。

「……この世界のひかりが、消えませんように」

水が、わずかに揺れた。

次の瞬間、森じゅうが、いっせいに光り出す。

木々が、花が、空気が、
まるで「ありがとう」と言うみたいに。

少女の髪が、風に舞う。
光が、彼女を包みこむ。

その日から、森は今までより、ほんの少しだけ明るくなった。

誰も気づかないほど、小さな変化。
でも確かに、世界は守られた。

少女は、今日も森に立つ。

光の中で、静かに――
この世界の“朝”を、迎え続けるために。
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