耳鼻科の前でイチャついてるカップルいたんだけどもっと他にイチャつける場所なんて何処にでもあるだろ。札幌ぞ？邪魔くさくない位置にいたからいいけどなんで耳鼻科の前？

第二話 (全三話)

黒い服の男は椅子に腰を下ろした
真ん中には座らない、少し端
主役は自分じゃないと分かっている座り方だった

「自分らな」

男は、ゆっくり言った

「世の中には、しんどいことがある
大人はそれを“現実”って呼ぶんや
でもな、現実ってのは、自分らを雑に扱っていい理由にはならん」

一番小さい子が言った

「雑ってなあに？」

男はその子の目線まで顔を落とした

「雑いうんは、"どうせ”って言葉や」

子どもたちが、少しざわつく
その言葉は、ここではよく使われる

「どうせ、私なんか」
「どうせ、誰も迎えに来ない」
「どうせ、幸せになれない」

黒い服の男は、指を一本立てた

「いいか
“どうせ”は未来の喉を絞める言葉や
言うた瞬間に、未来が息できんようになる」

男の子が言った

「でも、本当のことだよ
迎えに来ないもん」

黒い服の男は、すぐに否定しなかった
否定すると、嘘になる時があるから

代わりに、こう言った

「迎えに来るかどうかは、今は分からん
でもな、分かってることが一つある」

子どもたちが黙る

「自分らは、ここまで生き残った
それはな、才能や、立派な才能や」

「生きるってのは、けっこう難しい
それを自分らは、もう何回もやってきた」

その言葉に、何人かの子の表情が崩れた
褒められ慣れていない顔だった

黒い服の男は続けた

「生き残ったってのは、“勝った”ってことやない
でも、“終わらせなかった”ってことや」

「終わらせなかった人間にはな、次の手が打てる」

男は袋から、色鉛筆の箱を取り出した

「これは絵を描く道具や
でも、ほんまは違う」

子どもたちが見つめる

「これはな、『自分はこうなりたい』って言っていい道具や」

「ノートはな、心を置く場所や
頭の中だけに置いたら、心って暴れる
外に出して、置いていい、書いていいんやで」

「手袋はな、『自分は守られていい』っていう証拠や
寒さに耐えるだけが偉いんちゃう
あったかくしていい」

先生が、思わず目を伏せた
子どもたちに何を言っていいか分からなかった夜が、何度もあったのだろう

黒い服の男は、子どもたちの輪を見回した

「自分らに聞く
“将来”って言葉、嫌いなやつおるか」

何人も手を上げた
将来は怖い
将来は不安
将来は、今より辛いかもしれないから

男は頷いた

「当たり前や
将来ってのは、知らん世界や
知らん世界は怖い」

「でもな、ワシは今日、別の言い方を教える」

男は、ゆっくり言った

「将来ってのは、冒険や」

子どもたちが首をかしげる

#希望 #自作小説