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灯坂ゆいら
城からの脱出は想像以上に困難だった。というより、危機感というものがきちんと用意できていない状態でこの世界に来たため、注意力が欠けていた。
「アレクの野郎め。見つけ出してぜってぇぶっ殺してやる。」
「ああ。あいつのせいで俺らは...いたぞ!」
城の中にまで入り込んだ敵は、裏道にまで手が伸びており、殺意むき出しの凶器を持って全力で迫ってきた。
「王子!」
急に眼の前に現れた脅威にただ硬直するだけで何もできない俺と敵との間に剣先が現れ、脅威から俺を遠ざけられる。危機一髪だ。
「無事ですか!王子」
「あ、ああ。大丈夫だ。」
情けない。しかし戦ったことなどないし、殺傷能力のある武器を持ったことすらないんだ。なにもできない。こういうのには適材適所なんだよ!
「王子!もう少しお下がりください!剣が振りづらいです!」
怒鳴られるように命令され、俺は重たくなった足を引きずりながら戦場と距離をとる。
「お前閃光のセバスだな。王子の護衛を任される人間ならば当然お前ということになる。」
「ああ。だったらなんだ」
「やはりか。ここで有名人あえるとはな。こいつは楽しめそうだ。しかし、その後ろでビクビクしている情けないのが、本当にアレク王子か?噂よりも、情けない姿で、まるで平和ボケした商人みてぇだな。」
う!そんな的確に俺の本質を見抜かないでくれ。ま、まぁ相手は凄腕で、俺の本性も一発で見抜けてしまうのかもしれない。
「一般兵の俺でも閃光を倒したという実績があれば、多少出世も望めるだろうよ。」
一般兵かよ!一般兵にすら見抜かれる俺の中身って、本当に嫌になる。
「セバスさん!頑張ってください!」
「さん?ええ、全力でお守りしますとも。」
咄嗟に鼓舞してみたが、王子である自分が配下にさん付けプラス敬語の変な言葉になってしまった。セバスさんが思ったよりもすごい人で少し張りつめていた緊張がほぐれてきた。
「もう少ししたら援軍が来る。変に突っ込まずに時間を稼げ。」
「ああ。いくら2対1でも閃光様が相手だと何があるかわからないからな。」
そんなやり取りのあと、戦闘が始まった。
とにかくセバスは早かった。レイピア?っぽい細長い剣を的確に間接付近に繰り出している。いや本当に早いな。2人を相手にしているというのに、常に優勢であり、相手も致命傷を避けるのがやっとの様子だった。
「早すぎるんだよ!」
「この速さは卑怯だろ!」
「こちらも必死なのでね。」
涼しい顔したセバスはその間も、鋭い突きを繰り返していき、徐々に相手は避けきれなくなっていく。そしてあっという間に、手首を破壊し、戦闘能力を奪った。いや、本当に強いな。
「命は奪わないか。お行儀のいい剣だな。」
「別に私は殺人鬼ではないですからね。行きましょう。王子」
「ああ」
危険をスマートに退けたセバスのあとを俺は追う。命の危機からの解放。何もしていないはずの俺の心臓はドクドクとうるさかった。
そこからは援軍には出会わずに城の外に出られた。警戒しながらゆっくりと森の方へと歩を進める。
「王子。今日のあなたは別人のようだ。」
「そ、そうか!?...いろいろなことが起こって動揺しているのかもしれない。」
「その発言がもうすでに別人...いえ、今はそんなことはいいでしょう。」
ふう。セーフか?
「これから王子には生き延びてもらわなければなりません。でなければヘッケル王に報いることが出来ない。」
「ああ、そうだな。よき王だ、本当に」
「...王子よ。少し私にだけ話させてもらえませんか?調子が狂います。」
「あ、ああ」
なんだか、今は何を話してもダメな気がする。もともとの王子はどんなだったんだよ!
森の中は異様に静かで生き物の雰囲気が感じられなかった。
「正直、王子が今の様な姿になってしまったのには私も動揺しています。それは敵軍に城を滅ぼされたこと以上にです。」
「...」
何も言うことが出来ず、沈黙が続いた。
俺は正直に中身が変わっていることを伝えればいいかもしれないと考えたが、セバスにとって今の俺は守るべき人間ではないと思われてしまったら、敵が大量にいる中一人になってしまうと考えると言い出せなかった。いや、敵に襲われる恐怖もそうだが、何もわからない状況で、頼みの綱であるセバスとの関係が失われてしまうのが本当に怖かった。
「私にとってヘッケル王は何よりも大切な存在です。私はヘッケル王のために生きてきました。存在意義を失っていた自分に、生きる希望を与え、居場所をくれた。だから私は頑張れてきました。」
「ヘッケル王のこと信頼していたのですね。」
「ええ。しかしあなたのことを大切にしてきたヘッケル王の姿を間近で見てきた私にとって、アレク王子、あなたも大切な存在なのです。しかしこれまでの王子は、私の助けなど全く必要ないほど完璧なお方でした。なので、今回あなたのために役立てて居ることに幸せを感じてしまっているのですよ。今までのあなたは守られる存在ではありませんでしたから。」
「それは今の自分への嫌味ですかね?」
「半分はそうかもしれませんね。」
「ははは...そうですよね~」
「でも」
「止まって下さい」
セバスは小声で俺の動きを制止させるとその場にしゃがみこんだ。咄嗟に俺もその場に静かにしゃがみこんだ。
「王子。手遅れでした。私が何とか時間を稼ぎます。その間に逃げてください。」
「え!?」
すると前方から靴と地面とがこすれる音が近づいてきた。敵だ。セバスはその音に向かって全力で駆けていき、戦闘が始まった。
「うぉーーー!!」
「おお?早いね。」
「な!?」
その男は灰色の肌に白髪の巻き毛の持ち主であり、タキシードのような恰好をしていた。容姿は整っており、左目の下の涙ボクロが妖しい。そいつは二本の短剣を起用に振り回し、先ほど2人の兵士を一瞬で無力化したセバスの高速の剣を簡単にいなしている。
「君。早いけどそれだけだね。」
「何を!?」
「それじゃあ、僕には勝てない。」
そういうと、2本の短剣を空に放り投げ、2の目の前に一瞬で近づき猫だましをした。2は急な出来事に面食らってしまい、その後の腹への蹴りをもろに食らい、吹き飛ばされる。
「びっくりした?」
「き、貴様!」
「そんなに睨まないでよ。ちょっとした茶目っ気じゃん」
人が後ろに吹き飛ぶくらいの蹴りだ。とんでもない威力だろう。やばい。セバス負けてしまうかも。そしたら次は俺が。恐怖で呼吸が浅くなり、目がチカチカしてきた。するとセバスはのっそりと立ち上がると、後ろの木によりかかりながら呟いた。
「時間くらいは稼いで見せますよ。逃がすくらいのね。」
はっとした。そうだ。この男は俺を生かすという王との約束のために戦っているのだ。ここで俺が震えていたら、この目の前の男の願いを踏みにじってしまう。勇気を出せ!逃げるんだ。どこか遠くへ。
俺はゆっくりと音を立てないようにその場を離れ、二人の姿が見えなくなってきた当たりで全力で駆けだした。
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