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きぃ
からだの中は青みがかっている。底の見えない青が覆いかかっている。流された木の重力が下から這って出てくる。枕に預けた頭蓋にはビイ玉くらいの窪みがあって、溶け出したガラスの液体はゆらゆらと下へ落ちていく。上には丸い輪郭が揺れている。固まっている。写っているのは繰り返された線と面。遠ざかっていくもので、近づいてくるもので、バラけていくもので、絡まっていくもので、そういうもので、泥になったビイ玉は塗りつぶされている。
ぬかるみの中は刺す痛みがある。敷き詰められた綿と針とが、雪崩に呑まれて、ひしゃげたパジャマに食い込んでいる。荒い肌理模様が裏側にへばりついて、ウロの木は保たれている。中には変わらず青が潜んでいる。枝はどれも末枯れていて、脈はどこまでも太く通っている。どくどくと響いている。流れるものもまた、青みがかっている。
底はない。立ち上がらない。起き上がれない。青い時間が過ぎていく。色のない場所が消えていく。いつも世界のどこかは色づいていて、それはたぶん豊かであるはずなのだ。赤い色をした営みがあって、黄の色をしたファンタジーがあって、緑の色をした沈黙があって、黒い色をした悲しみがあって、白い色をした記念碑があって、どれも青から逃れた色をしているように思えた。青は喜びを睨む色。すぐそばにある幸福を、泥の中へ沈めて、見えなくするのではなく、むしろありありと見えるようにしながら、決して触れることはなく、ただ視界に写すだけの、臆病で怠惰な色。澱んだ青。水の色でも夏の色でもない。このからだに染み込んだ色。終わることだけを待ち望みながら、終わることから逃げ続けてきた、あたしに与えられた罰の色。そんな色をしている。
あたしの罪は永らえていること。抗うことなく永らえていること。枯れたら土に還るものだろうに、ぬくもったからだは、いまだ楽になることを許してはくれない。いいや。誰の許しも縛りも、真実、ないはずなのだ。あたしが無気力に逃れているだけ。こべりつく臆病と怠惰に委ねながら、あたしは今も布団にくるまれている。理由がないから。それを取り払う理由がないから、枯れ木は柔らかな隙間で横たわっている。
ゆらりと青く色づいた。日の色。朝の色。青い時間が過ぎ去った、そのことを意味する夜明けの色を、つづら折りのカーテンは鈍くたたえていた。ビイ玉の塊を、ぐるりと傾ける。映るのは読みかけの本と背を向く椅子。今度は逆の方へ傾けてみると、まだ日に焼けていないドアが迫ってくる。青く縁取られているからか、ひどく浮いて見える。この部屋に、動くものは、ただビイ玉を除いて、他には存在しない。カーテンも、まるで初めからそう彫られていたかのように、じっと形を変えずにいる。
きっかけは特になかった。もちろん理由もないまま、あたしの腕は、髪に掠め取られながら、頭を掻きむしっていた。しつこいくらいに同じところを、砂利を掻き分けるように、がりがりと、がりがりと。追って、枯れた枝にも脈がまだあったのだと気がついた。髪を束ねあげるようにして、熱を逃がしてみたり、逆に張り付かせて、熱を吸い取ってみたり、どろどろとした熱の中で藻搔いていた。本当に、熱も髪も、まとわりつく藻のようだった。
痒みは刻一刻と増していった。はじめはうなじ、次は耳の裏、側頭部、頭頂部。蛇の駆け上がっていく様を連想しながら、その蛇を追って、あたしの爪は髪に立てられた。けれど、いくら追ってもラチが明かない。あたしは、役目を終えたように眠る下半身を、納棺の気分で以てもたげてしまって、それをそのまま、床へと置く。人形と言えるほど愛嬌はなかったけれど、やはり飾られたような置かれ方をした自分が、なんだか少しだけ可笑しく思えた。数分、そんなメルヘンな心地を味わったあと、ピアノの鍵盤を叩く要領で親指から順番に、きびきびと力を込めていった。そう呑気に構えているうちにも、痒みという名の火は、依然として燃え広がっていた。髪から火の粉が飛び散らぬよう、夢中で頭を押さえながら、あたしは、最後まで力の入らなかった背中を右手で押し出して、転げるようにベッドから抜け出した。
起き上がるのは、いつも痒みからだ。理由なんてない。中で血が巡って、細胞が動いているから、ただそれだけ。できることなら、このままずっと眠ってしまいたい。けれど、からだが、それを拒むだけだ。痒いから、シャワーを浴びたいから、起き上がる。生きるのなんて、そんなつまらないこじつけの連続。そんなものでいいのだ。あたしは青が嫌いではないから、そんなふうに生きている。つまらない自分を、つまらない論理で納得させている。生き物は世界よりも、ずっとずっとテキトウでいい。ずっと理由なんてないままでいい。
ふと。カーテンの隙間から、青白い朝が差し込んでくる。気だるいからだをすべらせて、窓の方へ向かい、その隙間をぴしゃりと閉じる。部屋はいっそう暗くなる。けれど目はとっくに慣れている。だから、赤くあしらわれた花の模様が、うすらと浮かび上がるのがわかった。ゆるやかに波打つカーテンを背に、あたしは冷たいノブを握って、ゆっくりとドアを開けた。
コメント
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苔

める🍥
いやないよな…

お野菜
顔が変わりすぎてて草
絵柄か描き方かブラシの問題?w



🫠
回答数 216>>

声治りつつあるハクゥ

kuro.
#雰囲気
#友達募集

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たまな
今週は尾杉まんがを見て見て出来るようにガンバルゾイ????????????????????????
いつも通りᯒᯎ″❤︎ᯒᯎ″❤︎です
俺にはそれしか描けねぇ……!(尾杉界のミツ亻⑭匕サシ)

周(あ
落書きしたい…ボビさん描きたいフィン描きたい…(泣
あと…履修全部終わってる訳じゃないんだけど…最近ちょっと呪○廻○のキャラ描いてみたい欲がチラッと…
脹相と虎杖君とか…
五条センセは超絶美形に描かないといけないから難しそうだけど…

みー@ダ

流夜(6
今日の百鬼異聞録クイズ!
式神を当ててください!
【私はだぁれ?】
????役割????
場持ち・復活
????難易度????
中級
????特長????
回復とダメージを使って式神を復活させる
#百鬼異聞録
#百鬼クイズ

ぼのの
感想とか使い方なら前に書いたブログあるから、個ツイに置いとくね
フリーターでバイトだけだと貯金なかなか貯まらないんだよねー…

囲
休日に制服の破れたとこ縫う予定だったのを忘れてコッソリ穴空いてるけど、まぁ、他人からしたらこの穴関係ないし、私の人生だし……(言い訳)

焼きニ
#キックアップ
高校の時
同級生の一人が身長198センチあり
飛び抜けて大きかったです
教室に入る時も頭がぶつかるので
身をかがめてました
当然バスケをしており、東海選抜の
メンバーとして選ばれてました
バスケットボールを片手で持てる位
手も大きかったです

🌸はな

さち🐰
2021年怪我に泣かされたシーズン
2022年戻ってきて8月13日センターでファインプレーしてサヨナラホームラン打った日私現地で
「周東やっと戻ってきたやん、あ、周東のプレーすきだな」
ってハッとした日を思い出す蒸し暑い朝????笑
おはようございます‼️笑
1週間始まっちゃったよ????

☆えこ
本別まで行ってバーベキュー(約束してたし絶対行きたいやつ)だから
異常なスケジュールにしてしまった。
つかれたー
でもたのしいつかれはいい????
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きぃ 投稿者
カーテン
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT