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太郎

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蛍の村

おれは幼少の頃から一艘のボートに乗っていた。二本のオールが荒海に航路を敷くまでは。

あれはボートが破損して浜辺に戻ってきた時のことだった。一人の女から葉書が届いたとその蛍の村の少年が知らせてくれた。どうしておれの居場所が彼女に分かったのか。それは今でも謎のままだ。おれたちの長い電話でのやり取りがあって、彼女はその鄙びた村にやって来た。彼女とおれはそのボートの破損箇所を彼女が持ってきてくれた流行の金具で直した。

明け方に来た彼女が二人でボートの修理をしている間は一瞬の間に過ぎた。彼女はおれに流行というものを教えてくれた。そしてその流行の移ろいやすさは後に証明された。おそらく彼女も自分の航路を探していたのだろう。

おれは後になってすべてを知った。自分の航路というのが何処かにあるのではなく、それは自分にもどうにもならない自分のこの命のことだと。それを彼女に知らせたくておれはこの詩を書いている。しかしその時、おれたちはお互いに夢中になって何も見えなくなっていた。

おれたちはお互いに向き合って、より近くに自らにめぐり合った気がした。日が尽きようとして、あらわに暗くなるそのボートのなかで、その肌に、その髪に、互いの魂の明滅を、この村の蛍たちとともにゆっくりと合わせた。何処へ行くわけではないのだから、なおさら一艘は内側から豊かな沈黙に充された。
2025/07/16
2025/08/13
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