一次創作『世界一幸せな花嫁の話。』｜おりの投稿-GRAVITY(グラビティ) SNS

一次創作『世界一幸せな花嫁の話。』

「ちいさな町で生まれた女の子には夢がありました。それは世界で一番幸せなお嫁さんになるという夢です。」

そんな口上で始まったのは
儚い恋の物語。

「町には女の子と同年代の子供がいませんでした。唯一遊び相手になってくれたのは隣の家で暮らすプラチナブロンドが綺麗なお姉さん。しかしそのお姉さんも女の子が10歳になった時には町を離れて行ってしまいました。女の子が最後に見たお姉さんは真っ白なウェディングドレスに身を包み頬を桜色に染めて笑う姿でした。
女の子はそんなお姉さんを見て自分もああなりたいと思ったのです。しかし町には大人の男の人と産まれたばかりの赤ちゃんしかいませんでした。
ならばと思って女の子は森の中へと入っていきます。どこかに馬に乗っている王子様がいると考えたのです。
しかしそこに居たのは黒い鱗を光らせた大きな大きなドラゴンでした。そのドラゴンは岩の様に動かず女の子を歯牙にもかけません。女の子はびっくりしてその日は逃げる様に家に帰りました。数日経っても女の子はドラゴンを忘れられず、何度も何度も遠くからドラゴンの事を観察していました。一年ほぼ毎日ドラゴンを見に行きその日は綺麗に咲いた花をこっそりあげようと尻尾の辺りまで近付いたら時に、ドラゴンが首をもたげて言ったのです。「何の真似だ？」話しかけられた事にびっくりした女の子はパクパクと口を開け閉めするだけでドラゴンは興味を無くしたのかまたいつもの体勢に戻ろうとした時に女の子は慌てて言いました。「ドラゴンさんにね！可愛いお花が似合うと思ったの！」興奮した様子の女の子にドラゴンは何も言えなくなりました。破滅の象徴と恐れられたドラゴンに花などと、しかしどうしてでしょう。人間を蹴散らした時の様な命の取り合いをした時の様な熱い激情よりも生温いこの気持ちは。
次の日から女の子は喋りかけて来る様になって、初めは無視していたドラゴンも女の子が母親に叱られ泣きながらやってきた日から相槌位は打つようになっていしました。「私ね、世界一幸せなお嫁さんになりたいのよ」唐突にそう言った女の子にドラゴンは興味無さげにフゥンと呟く。「真っ白なドレスを着てね、貴方も呼ぶわ」「無理だな」「無理じゃないわ、だって貴方は私の一番の友達だもの」そうしてスリ、とドラゴンの鱗に頬を擦り付けるのだ。そんな和やかで何もない日が続いたある日の事でした。女の子に恋した年上の男の人が逆恨みをして彼女の脇腹を刺したのです。命からがらドラゴンの元へ逃げてきた女の子は強く笑って言いました。「私、多分死ぬわね」「何故そんな冷静でいられる？」「わかんない、多分最後に見えるのが貴方のその綺麗な瞳だからね」「やけに野暮ったい口説き文句だな」「あ、ぁあそう、そうね口説いてるの！口説いてるのよ名前も教えてくれないドラゴンさん」「、、、気でも可笑しくなったか」「今までにないくらい正気よ」「、、、」「私の夢覚えてる？」「あァ、世界一の花嫁、だったか」「お願いよ」「ヤダね」「私を世界一幸せなお嫁さんにして」「イヤダ。君は幸せになるだろうがね俺は世界一不幸な婿になっちまうだろうが」「あはは、そう、そうね！可哀想なヒト」「痛いか？」「痛くないわ。もう感覚もない貴方の瞳の色も分からなくなってきちゃった」「それにしては元気だな」「あは、うふふ、貴方といるとね、元気が出るの、、、でも時々泣きたくなるわ」「どうして？」「貴方が好きだからよ」そう言ってドラゴンの鼻先にキスをした。「ごめんなさい」「なんで謝る」「さァ」「なァ願い叶えてやってもいいぜ」「、ほんと？」「だから俺の願いも叶えてくれ」「ん、いいわ」「俺を世界一幸せな婿にしてくれよ」女の子は薄く笑って目を閉じた。そんな女の子を見届けた後ドラゴンはかっぱり口を開けて女の子を放り込む。鉄の味と微かに花の味がして口の端からヒラヒラと真っ赤に染った花弁が舞い散った。ドラゴンが初めて女の子と話した日に添えられた花だった。「これが幸せの味なのか？なァ教えてくれよ」ポツリと落とされたその言葉には誰も答えない。数日後ひとつの小さな町が地図から消えた。」

おしまい。