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太郎さん

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『フェルナンデス』をめぐり、石原吉郎をめぐるとき 3



『贋作ドン・キホーテ』(アベリャネーダ著 岩根圀和訳 ちくま文庫 1999年12月2日第一刷発行)についてはこの下巻「あとがき」によく纏まっていて詳しい。岩根氏の「あとがき」から一部引用する。

 これはアロンソ・フェルナンデス・デ・アベリャネーダの『才智あふるる郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』(スペイン語 中略)の全訳である。世界文学の遺産ともなっている『ドン・キホーテ』の作者はスペインのセルバンテスではなかったかと思われるかも知れない。たしかに『ドン・キホーテ』前篇は一六〇五年にミゲル・デ・セルバンテスの名で出版されている。これがたちまち大評判となり、その年度末にはすでに六版を重ねてとどまることを知らぬ売れ行きであった。
騎士道小説のパロディとして書いた『ドン・キホーテ』が空前の当たりを飛ばすまでは一介のしがない作家に過ぎなかったセルバンテスは、大いに気を良くして後篇に筆を染めることにした。前篇の着想を踏襲し、さらに構想を練って『ドン・キホーテ』の後篇を書き始めたのがいつの頃であったのかはっきりしない。しかし一六一三年出版の『模範小説集』の序言で「近いうちにドン・キホーテの後篇をお目にかける」と述べているからこの時点ですでにかなりの量まで書き進んでいたと見ていいだろう。実際にセルバンテスの『ドン・キホーテ』後篇が出版されるのはそれから二年後の一六一五年である。ところがその目と鼻の先の一六一四年にアビリャネーダの『ドン・キホーテ』後篇が世に出てしまった。
当時は剽窃の意識の薄い時代のことだから先に世に出たアベリャネーダの『ドン・キホーテ』は、作者の異なる別の『ドン・キホーテ』後篇であるに過ぎないのかも知れない。アベリャネーダ自身も「ある物語が複数の著者を有することは別段真新しいことではないのですから、この後篇が別の作者の筆から生まれることにどうか驚かないで戴きたい」と序文に述べているとおりである。それを承知であえてこの作品を贋作と呼ぶなら、真作の執筆途中に贋作の出版を目の当たりにしたセルバンテスの驚きと怒りは想像するに余りある。
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