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イグアナ
眠りたい時に眠り、1日の大半をパジャマで過ごす。寒い時は黄色のゴムのゆたんぽをベッドに押し込み、元旦那さんが作ってくれた襟付きのケープをはおる。彼が編み物を始めた時最初に作った作品だ。太いスラブヤーンで、表目と裏目だけで模様が構成されている。襟はしっかりとしていて、首を寒さから守ってくれる。ココア色でもレンガ色でもない、くすんだ灰がかったブラウンで、木製のボタンが二つ、付いている。ダッフルコートに使われるような、長丸いあれだ。
その旅人の出立ちのようなケープは、本当はもっとたっぷりした寸法になる予定だったが、糸を強く引いて作ったのだろう。からだにフィットするくらいのサイズになっていた。長いこと着ずにいて、私たちはそのまま別れた。旦那さんが編んだ二着のケープ、アームウォーマー、フェアアイル柄のベレー帽はそのまま残った。
彼のもとには、アラン模様の手袋が残ったはずだ。イグアナの卒業制作のフィッシャーマンズセーターは、クローゼットの中に置き去られていた。
家庭科が壊滅的で、根気のないイグアナに編み物を教えたのはあの人だ。指導はそれはそれは厳しくて、コースターで四苦八苦していたイグアナは、旅行先のホテルの中ですら、ベソを書きながら編んでいた。ドイツのママは根気強い人だったが、それでもイグアナの不器用さに呆れて手芸一般を教えるのを諦めたのに、元旦那さんはもっと根気強かった。
そのうちイグアナは泣かなくなり、市販のキットを買って編むようになり、最終的には編み物の専門学校を卒業した。手は遅かったが、諦めることもなくなった。解いてやり直す苦労も、厭わなくなった。
いつか二人だけででも写真を撮ろう、そう約束して、レース編みで作っていたウェディングドレスは、完成しないまま押入れにある。
ちいさなさようならを繰り返して、繰り返して、思い出は小さく丸くなっていく。流れにもまれた小石のように。
幸せで、幸せで、いて。

SOMEDAY
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そんな思いでもあるのね 今はゆっくり お互い回想のなかかもしれない
ゆに
やさしく、思い返し、綴れるイグアナさんをステキだと思う。
し〜ぷ☆*。
きっとイグアナさんにとってかなり大きな お別れも時を経て少しずつゆっくり小さく丸くなってゆくのかな。。。 イグアナさんの編み物🧶愛にはそういうバックグラウンドもあったんだね[穏やか] レース編みのウェディングドレスも完成したら素敵なんだろうな[穏やか]✨
みーあ
離れてしまった人に「幸せでいて…」と願う。それもひとつの愛のかたちだと思います。ケープが優しく肩をだいてあたためてくれますように。
まき
編み物の思い出、昨日のシチュー 好きなお花… 明日も穏やかな日でありますように