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イグアナ
好きで病気の人間はそういないと思うけれど、イグアナの様に普段多忙を隠れ蓑にしている人間は、時間ができると怖くなる。普段向き合ってきていない、見ない様にしているものたち、が一気に勢力を増すようになるからだ。
考えても、考えなくても、時は同じ様に平等に流れてゆくから、むしろ考えない方が健康的かと思うけれど、小さい頃から病気がちだったイグアナには、手に余るほどの考える時間があった。その勢力に真っ向から立ち向かう体力が加齢とともになくなれば楽になってゆくものと信じているけれど、いつまでも宿題のようにつきまとう、影のような仄暗い不安。頭が締め付けられるように痛んでは、波のように引いていく。
近くに小さな緑地があって、砂底まで見通せる透明な水が流れる小川がある。平日の昼間は子供たちもいない。沢のように勾配を下って急な階段を降りなければ行けないからか、歳多い人もいない。
近くのセブンイレブンでゼロコーラとサンドイッチを買って、滑らかな河岸の石の上に座って、緩やかな流れを眺めながら食べた。
中央分離帯のような茂みのところの流れだけ、妙に乱れている。川底の小石が光の反射でタイルのように丸っこく、敷き詰められているように見える。30分ほど乱反射する光を眺めて、ようやく気付いた。湧水なのだ。調べてみると東京都指定の湧水で、過去にはカワセミやホタルもいたらしい。
小川は絶壁に沿って流れているから、緑地の全てに背を向けて、イグアナは座っていた。すっぴんの、髪を一つに結んだだけの、若くもない女が、ひとり。そして同時に、子どもだったころの、イグアナも、ひとり。背中を丸めて、背を向けて。
湧水は思うほど冷たくはなかった。
小紅の水槽と同じくらいだなと、思った。
コーラとサンドイッチだけで600円もするんだ、
高いお勉強代だったな、と思った。
境目のようなその場所で、ずいぶん現実的なことを考えている。同じようで、違う。あの時とは。
そしてそれは健康的なことだ。おそらくは。一歩、退けるということは。引き返せるということは。
サンドイッチのゴミをポシェットに突っ込んで、ペットボトルの頭を掴んで、ゆっくり慎重に、立ち上がった。山鳩が懐かしく鳴いていた。

泡
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忙しかった私も、3年以上前そういうか経験があります。 体が痛くて寝たきりで、会社も辞めて2年間のパジャマ生活。 はじめ早く働きたいと思っていたけど、そのうちに時間を楽しめるようになってきましたよ。 YouTubeでいろいろな世界を見たり、勉強したり楽しかったなぁ[ほっとする]
tact
お勉強代、デフレとはいえ… 引き返す勇気、退く覚悟、力のかけ方が難しいかもしれないけれど、大事だと思います。でも、本音をいうと病気は嫌だねぇ(笑)
橙
うーん 怖いよね 怖いものは怖いのでね どうしたらいいというのはないんだけどね 無言で通りすぎるのも違うなと思った
しの
私も隣りで座ってサンドイッチを食べてる風景が浮かんだよ😊 そして イグアナさんと肩を並べて家に帰るのでした~✨
ヒサ
「小川は……背を向けて」の部分、凄く分かります。共感しました。私も、もう若くはないです。でも、此処まで歳を重ねたらいつかは優しい幸せがやってくるのかなと願ってます……。