風が色を運ぶ国に、季節を選ばぬ不思議な庭があった。｜𝒩Ä𝒩Ä🕊🫧 の投稿-GRAVITY(グラビティ) SNS

共感で繋がるSNS

投稿

𝒩Ä𝒩Ä🕊🫧

2025/12/04

風が色を運ぶ国に、季節を選ばぬ不思議な庭があった。
その庭は「花彩命の庭」と呼ばれ、咲く花の色が人の想いと命の流れを映すと伝えられていた。

庭を守るのは、一人の少女彩弥（あやみ）。
生まれたときから庭と心をつなぐ力を持ち、花の声を聞き、色の震えを読み取ることができた。

ある日、庭の奥で一本の白い花が静かに揺れていた。
例年なら白は“はじまり”を意味するはずだが、その色はどこか薄く、今にも消えてしまいそうだった。

「……あなた、誰の想い？」

彩弥がそっと手を伸ばすと、花の奥から小さな光がふわりと浮かび上がった。
それは、庭に迷いこんだ少年澪（みお）の記憶だった。

澪は胸に手を当て、うつむいていた。
「大切な人のことを、どうしても思い出せないんだ。
　でも……忘れちゃいけない気がして」

その言葉に呼応するように、白い花は細く震えた。
彩弥は悟った。――この花は、失われかけた“約束”の色だ。

「澪くん。この庭は、想いが残っていれば色を呼び戻せる。
　あなたの“思い出したい気持ち”を、花に伝えて」

澪はそっと花に触れた。
すると、淡い白はゆっくりと桃色に溶けていく。
少しずつ、温かい光が生まれた。

「……あぁ。思い出した。
　僕を呼んでくれた声。
　一緒に見た夕焼け。
　“また会おうね”って笑ったあの顔……」

澪の瞳に涙が滲むと、庭中の花々がいっせいに風をまとい、
淡い桃色から鮮やかな紅、柔らかな黄、夜の青へと広がっていった。

彩弥は静かに微笑む。

「花彩命の庭は、想いを色に変えて咲く庭。
　忘れても、想う心が残っていれば必ず咲き戻る。
　大切なものは、色を失っても消えないよ」

澪は深く息を吸い、花の色を胸に刻んだ。
その瞬間、白かった花は鮮やかな虹色の光を放ち、
庭の奥に眠っていた古い門をそっと開いた。

そこは、彼が失った記憶の続きへつながる扉。

彩弥は澪の背中を押し、優しく言った。

「行って。
　あなたの想いが選んだ色を、もう一度確かめに」

澪が歩み出すと、花々は風に揺れ、色の雨を降らせた。
――そうして“花彩命の庭”は今日もまた、
誰かの想いをひとつ、色として咲かせている。

#花彩命の庭

関連する投稿をみつける