共感で繋がるSNS
GRAVITY(グラビティ) SNS

投稿

ミロク

ミロク

「風の誓い」――夕焼けに染まる草原の別れ――

草原を渡る風が、二人の髪をやさしく撫でていた。
射馬疾風と風花は、果てしなく広がる緑のただ中で、静かに向かい合っている。
風花の瞳には、澄み切った空の色が映っていた。その奥に宿る強い光を、疾風だけが知っている。

「……風花。本当に、それでいいのか」

疾風の声は風に溶け、遠くへと消えていく。白い髪が舞い、白銀の瞳が彼女をまっすぐ捉えた。そこに滲むのは、不安と、わずかな希望。

「しぃちゃん……」

風花は彼の名を呼んだ。草原を抜ける風のようにやわらかく、どこか切ない声だった。

「私は族長の娘。この地を守り、民を導く責任がある。……しぃちゃんも、わかってるでしょ」

その言葉には迷いがなかった。後悔もない。運命を受け入れた者だけが持つ、静かな覚悟があった。
疾風は目を伏せる。理解しているからこそ、引き止められない。

「……わかってるさ。君が、誰よりも強いってことも」

声はわずかに震えた。無理に作った笑顔は、痛々しいほどだった。
しばしの沈黙のあと、疾風は顔を上げる。

「なあ、風花。最後にもう一度だけ……あの丘まで駆けないか。初めて会った、あの場所へ」

風花は一瞬目を見開き、すぐにやさしく微笑んだ。

「……うん。行こう。私たちが出会った、風の丘へ」

二人は手を取り合い、草原を駆け出した。
風が強く吹き、髪を、心を、揺さぶる。涙はなかった。ただ、喜びと別れの予感が、胸の奥で静かに絡み合っていた。
丘に辿り着くと、夕陽が草原を黄金色に染め上げていた。

「……綺麗だな」

疾風の呟きに、風花は頷く。

「うん……まるで、私たちの未来みたい」

その瞬間、風が止み、静寂が訪れた。
そして、また風が吹く。今度は温かく、やさしい風だった。
疾風は深く息を吸い、風花を見つめる。

「……風花。君は本当に強い。誇りに思う」

白い瞳に涙が浮かぶ。それでも、彼は笑った。

「しぃちゃん……」

「最後に……抱きしめてもいいか」

風花は静かに頷いた。
二人は強く、しかしやさしく抱き合う。言葉は要らなかった。鼓動と温もりだけが、確かにそこにあった。
やがて疾風は身を離し、深呼吸をする。

「……ありがとう、風花。さよなら」

背を向け、馬に飛び乗る。振り返らず、草原を駆ける。夕陽がその背を金色に染めた。

(君は、いつまでも僕の心の中にいる)

風花はその背中を見つめ、静かに願った。

(さよなら。でも、きっとまた会える……)

数日後。
疾風は町の酒場で、耳を疑う噂を聞いた。

「東の国境で盗賊が暴れてるらしい」

「村を焼いて、人を攫ってるって話だ」

胸騒ぎが走る。
——風花の故郷。
疾風は宿を飛び出し、馬を駆った。
嫌な予感は、的中する。
焼き払われた村。倒れ伏す人々。

「盗賊に……すべて奪われました」

怒りが、胸を灼いた。

(風花……!)

疾風は風を裂き、走り続けた。
痕跡を追い、盗賊の野営地を突き止め、そして——。
丘の上から見えたのは、炎に包まれかけた風花の村だった。

「……間に合え」

疾風は正面から突入した。
剣が唸り、風が吼える。盗賊たちは恐怖に叫び、逃げ惑う。

「うわあああ!」

「バケモノだ……!」

だが、彼は止まらない。

そして——

「しぃちゃん!」

その声に、疾風は振り返った。
すすに汚れながらも、強い光を宿す瞳。
風花は駆け寄り、彼の胸に飛び込む。

「ありがとう……本当に、ありがとう」

「無事で……よかった」

炎の中で、二人は抱き合った。
やがて、風花は顔を上げる。

「私は、この村を立て直す。ここで、生きる」

「……そうか。それが、君の選んだ道なら」

疾風は微笑んだ。彼女の自由は、ここにある。

「僕は旅に出る。風のように、生きてみたい」

「うん。しいちゃんらしいね。でも……また、来て」

「ああ。必ず」

疾風は歩き出す。
振り返らず、前へ。
夕焼けがその背を照らし、風が白髪を揺らした。
彼の胸には、確かな誓いがあった。
いつか、また会うその日まで。
風のように、自由に、強く——。
GRAVITY
GRAVITY3
関連する投稿をみつける
話題の投稿をみつける
関連検索ワード

「風の誓い」――夕焼けに染まる草原の別れ――