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夜月みゆ🪽
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ハーロック
男は、強く否定しない声で返した。
「縛ってるのは相手やない。
自分自身が、しんどくならんように……と思って、逆に締めてまうことがある」
胸が、きゅっと縮む。
図星が刺さるとき、痛いのは“言われたから”じゃない。
自分がずっと、それを知っていたからだ。
男は続ける。声は強いのに、乱暴じゃない。
「自分、“新しい恋をしたら悪い”って思ってへん?」
彼女は目を逸らした。息が浅くなる。
当てられたくないのに、当てられてしまう。
そして、当てられてほしかった自分もいる。
「……だって」
男は少しだけ言い方を柔らかくした。
「“だって”のあとに来る言葉ってな、だいたい自分を罰するやつや。
もう、罰にせんでもええ」
罰。
その単語で、彼女の中の何かがほどける。
彼が死んだことは罰じゃない。
私が幸せになれないことも、本当は罰じゃない。
でも、いつの間にか、罰みたいにしていた。
涙が落ちそうになって、彼女は唇を噛んだ。
噛んだ瞬間、味がした。血じゃない。悔しさの味だ。
男がぽつりと言った。
「なあ自分。愛って、もらうもんでもあるけど……
与えるもんでもあるやろ」
その言い方が、なぜか胸に残る。
彼が昔、似たようなことを言った気がした。
「好きって、相手の幸せが増える方やろ」って。
思い出した瞬間、胸の奥が熱くなる。
男は追いかけない。ただ、現実の温度で言った。
「ほんまに大事な相手がおるなら、その人が未来で笑うのを止めたら……
それは供養やなくて、自分を罰する形になってまう」
彼女の目から、ぽろっと涙が落ちた。
墓石に落ちそうになって、慌てて手で拭う。
拭う手が震えて、また涙が落ちる。
「……私、忘れたくないんです」
声がかすれる。
忘れたくないのは、彼だけじゃない。
彼と過ごした“私”も消える気がするからだ。
男は頷く。
「忘れんでええ。忘れんでええけど、
自分の人生まで止めてええ理由にはならん」
彼女は小さく首を振った。
「でも、新しい人を好きになったら……彼が……」
言いながら、自分が馬鹿みたいだとも思う。
死んだ人が何をするんだ。
分かっている。分かっているのに、心は理屈で動かない。
男は少しだけ声を落とした。
「嫉妬が混じると、愛が苦しくなることがある。
せやけど、相手を大事に思う気持ちは、ほんまもんやろ」
その言葉は、責めないのに、逃がさない。
彼女は息を呑んだ。
「相手がほんまに自分を大事に思ってたなら、
自分が幸せになるのを邪魔せえへん」
風が、ほんの少し吹いた。
線香の煙がふわりと彼女の方へ流れ、頬を撫でるみたいに消えた。
#希望 #自作小説


mana13.5❓️
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