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彩月

彩月

過ぎてしまったけれど、眠れる夜長に…

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手を擦り合わせながら夜道を歩く。

ふと思い立ち、帰り道に唯一灯の灯るコンビニエンスストアへとふらりと足を運んだ。

何も確認せず、冷凍コーナーにあるロックアイスと、酒コーナーにある角瓶を手に取る。

今の私には不釣り合いな高価なお酒。

「高いなぁ…」と苦笑しながら、レジへ行けば見慣れた店員さんがガラリと戸を開け、「いらっしゃいませ」とくたびれた顔で出迎えてくれる。

深夜にごめんなさい、と心の中で謝罪をしつつ、「Peace一箱、いただけますか?」と伝えれば少し驚いた顔で「…はい、こちらで?」とパッケージをみせてくれる。

…あぁ、これだ。
「はい。おねがいします。」

……まったく、高い買い物だな、と、改めて少しだけの後悔と高揚感でお会計を済ませ店を出る。

(今日だけは、特別だから)
そう、自分に言い訳をしながら玄関の前に立つ。
ほんの少しだけ目を瞑り、深呼吸をして、扉を開ける。

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「ただいま、おじいちゃん」
「ねぇ、飲みたい気分なんだ。」
「一杯だけ付き合ってよ。」

そういうと、こちらをチラリと見て、優しい垂れ目がもっと下がって、でも困ったような顔をして

『しょうがねぇなぁ、一杯だけだぞ?ばあさんに叱られちまうからな』
よっこらしょ、と立ち上がり、ロックグラスを二つ用意してくれる。
やっぱりわかってんなぁ、と、ほくそ笑みながら、買ってきたロックアイスを入れ、角を注ぐ。


『おい、氷買うのもったいねぇぞ?家にあんだから使えよ』
「じいちゃんちがうんだよ、これで乾杯したかったの。あたし。」
『最近の若いやつは舌が肥えてんなぁ。そんなに味が違うのか?』
「んー……製氷機よりおっきい氷だから。ちょっとお店気分じゃない?」
『そうか、じゃあ飲むか。これだけな?』
「ん。ありがと。」

「あ、Peaceも買ってきたからさ、お互い一本ずつ吸っちゃおうよ。」
『悪りぃことばっかおぼえて…誰に教わったんだ?悪い男でもいんのか?』
「んー、そうだねぇ。じいちゃんかな。」
『あっはっは!そうだったなぁ。』
『でも、孫といっぱい美味い酒飲んで、声聞いて、一本だけ煙草のんで寝るのも悪くねぇな』
「でしょ?じいちゃんに教わったこと全部覚えてる、かわいい孫娘でしょう?」
『そりゃあ、そうだよ。オレァ、お前がお前らしく、人並みに幸せに、仕事をしながらでも笑っててくれりゃそれが1番だ。』
「そっか。よかった。あたしたのしいよ」


『そうか。頑張れよ。一緒に飲めて楽しかったよ。ごっそさん。』
「うん。じゃ、また来るね。」


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ロックグラス片手に、ベランダへと出てタバコに火をつける。
紙と煙草の葉が燃える独特の香りでむせかえる。
副流煙が目に入って、涙も出る。
ゆっくりを紫煙を肺まで吸い込み、大きく咽せてしまう。


「…これをさぁ、美味いっていってたあんたの気はしれないよ。強いよこれ。」
「でもさぁ、やっぱり角、美味いね」

そんなことを呟きながら、空を見上げた。
晴天とは言えない、でも大きな月が私を見ていた。

「私生きるの向いてないよじいちゃん、どーしよずっとニートだったら」
『大丈夫だよ、お前は生きていける』
「なぁんで」
『お前は真面目でバカみてえにまっすぐで、オレそっくりだからよ』

『だから安心しろ、じいちゃんが認めてやるから』


タバコを消して、残りの角を一気に飲み干す。
喉を強いアルコールが通り抜ける時の、独特の熱と風味に、乾いた笑いが込み上げた
外気を思い切り吸い込んで、少しでも臭いを無くそうとしたけど、その空気が冷たくてまた咽せた
ほんのすこし、しょっぱい空気だった。


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「ね?最後にハイボールのまない?」


そう問いかけようとした瞬間、雲がかかった月と目があってしまった。

私は思わず苦笑いをしながら「そっか、じゃあまた来年やね」
そう言って、ベランダをあとにした。



……ねえ、じいちゃん。
誕生日、おめでとう。
92歳に、なってたんだね
いつも、同じ椅子で座ってるじいちゃんと、一緒に呑んでるつもりで、今年もロックと水割り、呑んだよ。
…あたしにはまだ、水割りの美味さはわかんねぇなぁ…いつか、わかるようになったらいいな。

あ、箱に残ったPeaceは、こっそり。
じいちゃんに倣って、缶の中にいれといたよ。


だからさ
…また、お酒付き合ってね。
あたしが泣きたい時にはさ。
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