私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う｜三日月🌙の投稿-GRAVITY(グラビティ) SNS

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三日月🌙

2025/11/22

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う

遠い昔、学生の頃から五年ほど付き合っていた彼女と別れた頃のお話し。

その年の秋に小岩に住んでいる叔母の家に遊びに行った。
叔母は父の二番目の妹で、三人の息子がいたので小さい頃は夏休みになるとお互いの家を行き来していた。

５人いる父の妹たちはそれぞれ個性的で。
小岩の叔母は病気がちだったこともあり、物静かで自分の世界を大切にしている人だった。

ずっと絵を描いていた人なのだけれど、その頃は飯田深雪さんのもとでアートフラワーを学び始めた時期で居間のテーブルには色んな色の布と文房具サイズの小さな工具たちがキラキラ並んでいた。

その日、もう社会人になった従兄弟たちはそれぞれ出掛けていたのでなんの用事で訪れたのか思い出せないけれど小さい頃から慣れ親しんだ家だったので、コーヒーと手土産のケーキで寛いでいた。

叔母は個展の準備のためにアートフラワーの素材に手をうごかしていて、僕はいつものように叔母の本棚を物色していた。

そこには向田邦子の単行本版が揃っていて、その時の気持ちに沿ったタイトルを探していると見慣れない白い新刊が目に止まって。

キッチンというタイトルに赤い書体で吉本ばなな
手にとったままの姿勢で一気に読んだ。

それは社会にでて一年目くらいかな。
何者かになりたくて、周囲の溢れかえる才能にしゃがみこみそうになりながら、自分の個性も性格も横に置いてあるのかどうかもわからない宝島を目指していた時期に。

本人も気づかない、ちょっと風が吹いたら消えてしまいそうな小さな、マッチの火より小さな灯りがお腹の奥の方に静かにひっそりと点って。

これ燃料がなんだかわからないのだけれど、何十年と長い年月を密かに自分の魂の端っこをずっと照らし続けてくれた。

私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う

先週、大学での講義を終えてからずっと
今自分があの子たちに伝えたかったことは何も伝えることがないなんだかよくわからないこの話だなあと考えていて。