作詞って「書こう」と向き合う時間は尊いのに、書ける時と書けない時がある。

「孫とLINEがしたい」と宣う母（70代）にかんたんスマホを買った。これまではボロボロのガラケーを使っていた。

会社のPCを使いながら「ヤフーとかユーチューブってこれ、アタシが見てもお金かからないのよね？」などといつも不安気に聞いてくる母のため、通話と通信がし放題になるSIMカードの申し込みをしてあげたが、しかし本人確認の段階で母は顔写真入りの身分証を持っていないことが発覚。

50年間ペーパードライバーだった運転免許証は前回を最後に更新をせず、マイナンバーカードも「なんだか不安」との理由で作っておらず。もちろんパスポートなんて持っていない。
ちなみに12月から使えないはずの健康保険証は「資格証明書」のような名前の、見たことのない新しい茶色いカードを持っていた。

結局マイナンバーカードを作るのが一番早いと思い区役所に聞いたところ、それでも発行まで一ヶ月はかかるという。もちろんやり取りは郵送である。

スマホ本体だけが先に来てしまったので、とりあえず設定を済ませて母に渡し慣れさせることにした。だが、スマホを渡しても「よく分からない」を連発する。
「LINEはこのボタンで、ラジオを聞く時はこれだよ」私はそれらを一つ一つ、丁寧に説明する。
歳を取ると、新しい何かを覚えるのがこんなにも億劫になるものだと改めて知った。

母は、父に先立たれてもう15年以上になる。
私は父の残した会社を引き継ぎ、母は今でもそれを手伝ってくれている。

小さいながらも会社を運営していくのは大変で、私自身とても辛い経験をいくつもしてきた。1番大変だった時は出社するだけで精一杯、本当に仕事が手に付かず、一日中鬱の闇の中でただただ会社の椅子に座っていた。

「大丈夫！」「アタシがやっといてあげる！」「あんたは休んでていいからね！」
今でも会社を続けられているのは母のお陰だ。

父が亡くなる時、父は俺に「母さんに楽をさせてあげな」と言ったけど、すまん父さん、俺はその約束を果たしていない。でもそろそろかなとは思っているよ。

縮こまった背中に薄くなった白髪を垂らした母は、今日も仕事の合間にパソコンでYouTubeやニュースを見ている。

「アタシ今これお金かからないで見られてる？」「パソコンになにか画面が出てきたけど何を押せばいいのかしら」
「このパソコン壊れてるわよ。さっきからずっとメールが開けないのよ」

そんな母に、私は今日も一つ一つ丁寧に説明をしてあげる。
孫とのLINEも年明けにはできるかな？そうしたらもっと日々が楽しくなりそうだよね。
でもね、俺は母さんに仕事を辞めさせる気はないぜ。だって辞めさせたら一気に弱ってしまいそうだからな。

今日も明日も一日をのんびりと、いつか来る父との再会のその日まで、俺は母さんを安心させてあげるぜ。
だから、これからも笑って生きていこ。