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ミロク
銀警察署の地下には、戦いをためらう者を寄せつけない冷気が満ちていた。
巨大な円形のアリーナ。金属で造られた床と壁は、数え切れないほどの爪痕と焦げ跡に覆われている。
最奥に立つ教官サキマの瞳が、白色の光を宿して輝く。その横顔を見た訓練生たちは息を呑んだ。
彼が腰に携える白銀の拳銃が、無言の威厳を放っている。
「——戦闘試練、開始!」
サキマの宣言が鳴り響いた瞬間、照明がまばゆく点り、金属の世界が一層鋭く輝いた。
アリーナの両端に立つのは、二振りのチェーンソー型大剣を構える二人の銀警官。
ユディットとヴァロ=ナイト。
同じ白髪、同じ白い瞳。だが、その奥に宿る光はまるで異なっていた。
ユディットの瞳に、燃えるような赤が差した。正義への情熱が、血のように彼の身体を駆けめぐる。
「ヴァロくん——行くぞ!」
彼の叫びと同時に大地が鳴り、重い足音がアリーナに響く。
チェーンソーの歯が金属音を立て、唸りを上げる。弧を描く一撃がヴァロを斬り裂こうと疾走した。
しかしヴァロは、微動だにしない。白い髪が照明に反射し、冷たい銀光がその頬を撫でた。
ユディットの剣を横に流すように受け止め、力を逃がす。
「熱いな、ユディットくん。けど——熱だけじゃ僕は倒れない」
穏やかな声。その静謐さが逆に観客席の空気を震わせた。
ヴァロは一瞬の間を突き、低い姿勢でカウンターを放つ。
地を裂くような音。ユディットは跳んで避け、空中で身体をひねる。
着地と同時に振り下ろした剣が火花を散らし、重金属の匂いが立ち込める。
ヴァロの足元が床にめり込む。しかし彼の表情は微塵も揺れなかった。
戦闘が進むにつれて、アリーナの空気は静けさと轟音を往復する。
ユディットは激情のままに連続攻撃を繰り出し、火花の光が流星群のように舞う。
そのたびに訓練生が息を呑み、誰かの喉がかすかに鳴る。
だがヴァロは圧倒されない。無駄のない動き。計算された間合い。
彼の刃筋には、理性という名の冷たい炎が宿っていた。
「ユディットくん、動きが直線的すぎる!」
ヴァロが叱るように声を飛ばす。
次の瞬間、彼は一気に距離を詰め、剣を水平に払った。
ユディットは受け止めたが、力の軋みに押されて踵を滑らせる。
床に金属片が散り、銀の粉が宙に舞う。
「まだ終わない!」
ユディットが叫び、剣を地面に叩きつける。衝撃波が走り、アリーナ全体が揺れた。
その乱気流の中、跳躍。空中から渾身の一撃を振り下ろす。
ヴァロはとっさに構え直し、その斬撃をかすめるように受け流す。
火花が爆ぜ、閃光が一瞬、二人の姿を曖昧に染めた。
体力の限界が近づく中、ユディットの刃から勢いが少しずつ鈍っていく。
そして——刹那。脳裏にかつての仲間の顔が浮かんだ。
迷い。情。
その小さな揺らぎが、戦場の均衡を崩した。
「迷いは命取りだ」
ヴァロの声は、まるで凍てついた空気のように冷たく静かだった。
一閃。
ユディットの剣は押し返され、膝が床に沈む。
だが炎はまだ消えない。
「僕は人類のために戦う! ヴァロくん……君もじゃないか!」
絶叫とともに立ち上がり、全身を震わせた。
再び剣を構え、突進。轟音とともにアリーナが共鳴する。
ヴァロは一歩だけ横にずれ、その攻撃を紙一重で避けた。
そして、流れるように反撃。刃がユディットの肩をかすめ、火花を散らす。
その切っ先がユディットの喉元で止まった。
「ここまでだ」
ヴァロは低く告げ、肩で浅く息をした。
しかし——
ユディットの唇に薄い笑みが浮かぶ。
「まだだ!」
剣が跳ね上がり、二人の武器が再び激突。
余韻のように振動が響く中、ブザーが高らかに鳴り響いた。
サキマがゆっくりとアリーナに降り立つ。
「ユディットくん、君の情熱は訓練生の心を燃やす。けど感情に飲まれれば、命を落とす危険がある。ヴァロくん、冷静さと戦術は完璧だが、心の熱を忘れるな。——引き分けだ」
二人は剣を下ろし、静かに見つめ合う。
ユディットが汗を拭い、短く息をつく。
「いい戦いだった、ヴァロくん」
「君もな、ユディットくん」
わずかな笑みとともに、二人の間に敬意が流れた。
訓練生たちの拍手が広がり、アリーナ全体が暖かい熱を帯びていく。
サキマは腕を組み、誇らしげな眼差しで二人を見つめていた。
白銀の拳銃の金属音が、静けさの中で小さく響いた。
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さりー

はな
バイトも経験の積み上げできてないし
自分磨きも停滞中だし
人間関係の苦手意識はどんどん加速してくし
何やっても上手くいかないじゃんって思いたくないのにそんなことばっかり頭に浮かんできて
やばいまたこれか
こんな全てが中途半端な私といったい誰が一緒にいてくれるんだろう。こんな自分の感情さえコントロールできない私と誰が友達だとか恋人でいてくれるんだろう。このままじゃ私、今周りにいてくれている人達にもいつか見捨てられるんじゃないかなんていう不安に襲われる。あー結局独りになることが怖いんだな私は。自立したかっこいい大人になりたいってこれまでずっと思ってきたのに真反対じゃん笑
でも、誰かにそばにいてもらうことを望むなら、こんな私じゃだめだ。ありのままの今の私を私自身は絶対に許すことなんてできないから、愛すことなんてできないから、このままではいられないな。私自身が私を愛せなくて他人を愛すことなんてできるわけないんだから。このままではいられないな。やっぱり私は変わらないといけない。
私は変われるのかな。

にいな
母と話しながら「純文学は"いい人"には書けない。純真な心だけではなく、どろどろした感情がある善悪両面をもっている人が向く。なぜなら人間の心理は多層的であるから、心が複雑な人の方が心理描写はよく書けると思う。いい人はSF、エンタメなどの方が向き」……という持論を披露しました。もちろん異論はありますが。

じん
歯が無くなりそなくらい
固いんがいい
柔らかすぎる
ガーネット
見た目…疲れ果てた感じの人は苦手だし…
私の心にズカズカと入ってくる人も苦手だし…

地球人(🔰研修中)
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真崎真

でぇち
まじで新シリーズ好きな声優ばかりでほんまに良すぎる

通常色

しん兄
警察も検察もミジンコくらいにしか頼りならないんだから
催涙スプレーとかスタンガンとか自分の身を守れない人は常備しとかないとダメな国になるな

ダッチ
ほんと終わっとる…

奏
おっちゃん…レイホンといいなんなんだよこの敵役達…

佐藤

メンデ

通常色
気づいたらこれなくなってたきがする

ぬおん
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