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まに

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デザイナーの後輩から相談を持ちかけられた。おじさんになると、誰かからのお誘いはどんな内容でも嬉しいものである。とりあえずご飯でも食べながらと、下北沢の居酒屋さんへ行った。着いて早々に「重たい相談があるんですけど…」的なオーラが漏れ出していた。テーブルの上にはまだ水しか置かれていないの状況がさらにその重厚感を増す。とりあえずこの空気をブレイクしたかったので私はメニューに飛びつき、魚VS肉のデスマッチを演出した。

相談内容は色々あるが、噛み砕いてしまうと「前にあった情熱がなくなってきている」といったものだった。この手の話は、私たちのクリエイティブ業界では結構なあるあるだった。なので、おじさん的には相談に乗ることができるラインでホッとしてしまった。でも、初めてのことだと不安になるのだろう。「もっと色々やりたい」「別の仕事にも関わりたい」と、言葉は前向きで、むしろ羨ましいくらいだった。正直、こういう人と一緒に仕事がしたいし、できれば給料をたくさんあげたいと思った。

自分がまだおじさんではなかった頃、同じような悩みはあった。多分、これまで5回くらい大きなものはあったと思う。10年前、ディレクションもデザインもコーディングも全部やっていた頃だ。時間がなさすぎて、どうにもならなかった。頑張れば1案件増やせるけど、その分、仕事が雑になる。悔しいな、もっと稼ぎたいのになと思って編み出した苦肉の策が「プロジェクトのディレクションを毎日良い感じ進めて、デザインデータなしで、デザインはコーディングでやる」だった。

実装してスクショを撮って「デザインできました」と提出する。相手が「いいね」と言ったら、そのまま軽量化やインタラクションを加えつつ、裏で別の仕事を進める。効率を考えれば自然だと思った。コーディング期間中、実質もうできてるので遊ぶこともできる。すごい必勝法を編み出したとウホウホしていた矢先問題が起こった。「別に人に引き継ぐので、デザインデータをください」と言われた。全く想定していなかった。脳に雷撃。結果、上司にこっぴどく怒られた。そして「秩序を壊す行為なのでやってはいけないことだ」と激しい罵声を浴びせられた。ごもっとも。だって、デザインデータもないのに、どうやって引き継いでデザインするって言うんだい!わかる、とてもわかる。とりあえず反省している顔はしたが、内心では納得していなかった。

思えば、あれは成功体験だった。常識をぶち壊すことも、限界を突破するひとつの手段になる。スクショ一枚で突破できることもあるのだ。怒られるのも含めて、笑える記憶になった。

あの時居酒屋さんでちゃんとアンサーできなかったかもしれない。今若手に言えるのは「情熱がなくなることは悪いことじゃない」ということだ。むしろ、そこで変な抜け道を見つけることの方が、ずっと面白い。怒られたら凹む顔だけしておけばいい。納得できなければ、それもまた一つの財産になる。そして、いつか、同じように後輩ができて似たような相談をされた時、あとで笑えるような脱法話をしてあげたら良い。

唐揚げが届いて、熱すぎて笑いながら口を冷ましている後輩を見て、少し安心した。限界を突破する方法なんて、案外そんな脱法や抜け道から始まるのかもしれない。
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