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誤条悟

誤条悟

小説です。

プロローグーファミレスと有線と花の髪飾りー


 小学生の頃の話だ。
 朝、隣に住む幼馴染の乃々花に起こされる。
「なんだよ、今日は日曜じゃねーか!もっと寝かせてくれよ」
「寝ちゃだめー今日は、円花ちゃんを迎えにいくでしょ! 準備しないと」
「まどか?誰、それ?」
「忘れたの? 秀雄おじさんのお友達の娘さんだよ。今までは施設で暮らしてたけど、今日から、来夢くんの家で一緒に暮らすことになるんだよ」
そういや、そうだった。おれ、ずっと、一人っ子だったから親父に、「なあ、家族が急に増えることになるから大丈夫か?」って聞かれたから大歓迎だって即答したんだった。なんか、親父の大親友の子供で、その大親友とやらが亡くなった後は、施設に入ったらしいけど、いじめかなんかで大変だったらしくて、じゃあ親父が引き取るよって事になったらしい。おれはゲームの対戦相手ができてラッキーって感じだったけど、そうか女の子だったのか。
「わたし、今日のためにこんなのつくってきたんだよ」
 それは花の髪飾りだった。髪飾りっつうか、正確には頭に被る花冠ってやつだ。へえ、器用だなあ。こんなん作れるんだ。
「ちゃんと3人分あるんだよ」
 おれまで付けんのかよ!恥ずかしいなあ。まっ、しょうがないか。乃々花が張り切ってるし。

 親父と乃々花と一緒に、これから一緒に住むという女の子、円花を迎えに行く。なんか俺にはよくわからんけど、養子縁組をしたとかで、おれの義理の妹になるみたいだ。まあ、格ゲーの練習相手にでもなってくれたらいいや、そんな軽い気持ちでいたけど、初めて会った円花は、ずっと下をむきっぱなしで、全然しゃべらないしで、これから大丈夫なのかとおれは不安になった。そんなぎこちない状況で、親父は「まあ、みんな腹でも減ってるだろう」とファミレスに行く。
 注文したメニューが届いても、なかなか食べようとしない円花。困ったもんだと思ったときに、ファミレスの有線で、流行りのボケモン数え歌が流れ始める。これ、リズムに乗ってボケモンの名前を次々呼んでくってだけの歌なんだけど、ラップ調で曲がなかなかカッコいいから、当時の子供たちに大人気だった。思わず、有線に合わせて口ずさむおれ。すると、それまで黙ってた円花に笑顔が見え始める。おれは調子に乗って、替え歌まで歌い始める。
「へーい!くさったミカン!今日のゴハン!夜になったらおなかがあたってドカンドカン!トイレに直行、ドカンドカン!」
「もー、来夢、いまは食事中だよー、、あっ」
 おれを嗜めようとする乃々花だったけど、急に黙り出して円花の方を見る。
「あはっ、あはははっ!」
 円花が満面の笑みを浮かべて、声を出して笑っていた。それを見た瞬間、おれはこいつとうまくやっていけそうな気がしたんだ。まあ、今にして思うと、これがおれの初めてのヒップホップ体験だったわけで。
「ねえ、円花ちゃん、今日の記念に、わたし、こんなの作ってきたの」
 すかさず、このタイミングで花の髪飾りを取り出す乃々花。
「円花ちゃん、付けてみて」
「おれも男の子だから正直恥ずいけど、まどかのために今日は特別に付けてやるぜ」
「うん、ありがとう……」
 誰かから何か貰うことに慣れてないのだろう、どこか不器用な微笑みで円花は答えた。

 すると、さっきからおれたち3人のやりとりを黙って見ていた親父がカバンからカメラを取り出して、こう言った。
「おまえたち、よく似合ってるぞ。写真を撮ってやろう」
 なんかちょっと親父が涙目になってるのは気のせいだろうか。

「はい、チーズ! ……いい写真が撮れたぞ」

「なんかこそばゆいなあ。ねえ、乃々花、もう、これ取っていい?」

 匂いはしないんだけど花粉でも飛んでるのか鼻がムズムズする。

「だーめ! 今日はずっと付けてなきゃダメなの!」
 ぷんすかと、おれに向かって怒り出す乃々花は、さすがにガーベラの髪飾りが似合っている。

 そんなおれたちふたりのやり取りを見ていた円花は、にこにこと笑っている。ちょっとサイズの合わないガーベラの花の冠がズレてきて、花びらが円花の瞳のあたりでゆらゆらと揺れていた。ガーベラの花言葉は「希望」。そんなことを知ったのは、もっとずっと後のことだったけど。でも、そのときおれはこれから楽しい日々が始まると思ったんだ。

To be continued to
Story of "LOVE OF THE HIP HOP FLOWERS"
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