石川の生命線はあの膝元のストレートよ。今日はあれが決まるからちゃんと試合作ってくれるはず。

※長文です。#会社 #愚痴

①
「もう我慢ならねぇ！　何だこの会社！！」

我が社に入って一ヶ月の75歳新入社員は吠えた。

「お盆休みが無いだなんて！」

ふふふ。しめしめ。
怒れ！　もっと怒るのだ！

この75歳新入社員はコネ入社だった。

地権者の関係、商工会の関係、消防団の関係、市役所の関係。
田舎ならではの色々なしがらみで、社長はこの人に頭が上がらない。

この75歳新入社員はその「逆らえない」を利用して、「タバコを買うお小遣いが欲しいから会社に入れて」と社長に頼み、入社したという経緯がある。

社長よりも大きな家に住み、社長を「ちょっと来て」と呼びつける。
もはや怖いものなど何もない新入社員であった。

だから、この75歳の怒りの叫びは嬉しい変化であった。

『ですよね～！もっと待遇を改善してほしいっすよね～』

火に薪をくべるが如く、75歳を焚きつける私。
この人が社長に噛みついてくれれば、社長も考えを改めるに違いない！

「こうなったら社長に直訴してやる！！」

面白いくらい、良い方向に転ぶ。
しめしめ。

「まずはお盆休みが無いことだけでも言わねば！
　お盆の13～15日くらいは休みだろ！常識的に！！
　我が家は親せきを迎え入れるのに忙しいんだがね！！」

頭から湯気を噴射しそうな75歳は仕事を放り出して社長室に駆け出した。

やった！
これでお盆のお休みをＧＥＴだ！！

75歳が出て行った事務室。
残された私と、一連の流れを見ていた同僚は、お盆休みへの期待でひと盛り上がり。

しばらくして、社長室から75歳が帰ってきた。

満足げな表情。
これはもう休みが取れたという報告に違いない。

「いやはや…
　お盆を休むのは普通、常識だがね」

ウムウムと、一人で納得しながら歩いてくる。

『休み、取れたんですか！？』

期待いっぱいの私は詰め寄る。

「あぁ、お盆休みが取れたぞ」
『本当ですか！　やったぁ！！』
「何を喜んでいるんだ？」

75歳は顔をしかめる。

『え？　お盆休みが取れたんでしょう？』

「ああ、取れた。
　俺　だ　け　な　！
　俺以外は普通に仕事に出るんだぞ？」

！？

一瞬にして絶望の表情を浮かべる社内一同。

お、お前…　お前…
自分だけ休みを確保してんじゃねええええ！！！

（つづく）