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楓花(ふうか)
一人の男が路地裏でタバコを吸っていた。
そこそこ高価そうなブラウンのジャケットを羽織り、ヴィンテージ物のジーンズを履き、革のベルトにバックルは金だった。
もう一人、男が近づいてきた。
黒のレインコートを羽織っていて、黒いマスクをつけていた。
その男はジャケットの男にこう言った。
「お前の全てを奪う」
ジャケット男は特に驚く様子もなくレインコート男を一瞥し、また新しいタバコを取り出して
火をつけながら言った。
「どうやって?」
「今からお前をこれで殺し、着ぐるみ全部剥がす」
そうやってレインコート男はコンバットナイフを見せつけた。
凶悪なナイフだった。
しかしジャケット男は静かに言った。
「構わんよ」
レインコート男は少し度肝を抜かれた。
そういう対応をされたことがなかった。
思わずこういう言葉が口から出た。
「あんた、狂ってんのか」
ジャケット男はフッと笑い、タバコの煙が
口から吐き出された。
「そうかもな。そうだろうよ。その通りだ」
ジャケット男はタバコを地面に捨て、
レインコート男に向かい合い、両手を広げた。
その左手の薬指に鈍く光った指輪を
レインコート男は見てしまった。
「怖くないのか。全て失うんだぞ」
ジャケット男は尚もゆっくりと、静かな言葉で告げる。
「単刀直入に言うと、俺はもう解放されたいんだ。
俺には愛する妻もいる。子供もいる。他にも愛し、愛してくれる人々が沢山いる。
だけどそれが俺の心を揺さぶることは無かった。
嫌気がさしてるんだ。この世に対して。
そこにアンタが現れた。救世主のように」
「俺は本気だぞ」
「分かってる」
「本当にいいんだな?」
「ああ」
レインコート男はジャケット男の腹部を刺した。
深く、そして内部で捻った。
ジャケット男はレインコート男を抱きしめて言った。
「ありがとう」
ズルズルとジャケット男は倒れ、レインコート男はジャケット男の物品を漁り始めた。
良い財布を見つけて、中を開いた。
1350$とちょっと。そして写真が出てきた。
ジャケット男とその家族の写真だった。
幸せそうな笑顔で、彼らは写っていた。
レインコート男は愕然とした。
自分には今まで足りないものがあって
それを手に入れる為に人を殺してきた。
でも目の前で倒れてる男は、そのレインコート男が
欲しかったものを持っていた
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SEASIDESERENITYとは何ですか?
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このブランドは、心身のリフレッシュを図るためのアイテムを通じて、利用者に穏やかな時間を提供することを目指しています。

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楓花(ふうか) 投稿者
ショート小説だったわけだけれども、実はこのジャケット男が、私の目指したい男でもある。 でも彼はやはり決して愛に満ちた男でもない。 愛に飢えて、只々、愛を与え続ける事によってなんとか生きながらえようとしている、惑い人に過ぎない。 決して満たされることはないのだ。 その命をこの様に投げ打っても。 自己犠牲でもなんでもない。 彼の我儘でしかない。 彼の家族だって、そんな彼に迷惑を被られているだろう。 でもそうやってでしか、生きられない人間もいる。 そして私も、もう実は既にそうなってしまっている。 実際そうやって生きてきた。 これに近い事を何度もやってきた。
楓花(ふうか) 投稿者
レインコート男は刺した箇所を圧迫しながら叫ぶ。 「俺だって気付いてたさ!でもどこかに居場所があるって思ってた!アンタにはあるだろ!帰る場所が!帰らなければ!生きろ!死ぬな!俺は、アンタから聞きたいことがある!」 「随分と身勝手な奴だな。もういいだろ。俺は疲れた」 「いいから死ぬなクソッタレ!」 レインコート男は携帯を取り出して、救急車を呼んだ。 そしてジャケット男のタバコの葉をほぐして、傷口に詰め込んだ。 ジャケット男はそこで意識を失った。 程なくして、救急車が駆けつけた。 レインコート男は救急隊員と警察に向かって叫んだ。 「身勝手だって分かってる!だけど絶対に死なせないでくれ!頼む!」
楓花(ふうか) 投稿者
5年の歳月が流れた。 あのレインコート男は頭を丸めて、質素な服を着て堀の外に出てきた。 あのジャケット男はその哀れな男を抱きしめて、こう言った。 「よく帰ってきた」 「それはこっちの台詞だよ。この5年、アンタとのやり取りの中で色んなことを学んだ。アンタ、俺にただ真っ当な生き方を教える為だけに一芝居打ってわざと刺されたんだろ。なぁ、なぜそこまでした?こんなクズの為に」 ジャケット男は笑って言った。 「それが俺の生き甲斐だからさ。俺だってどうしようもないクズさ」 丸坊主の男は肩を震わせ、泣きながら言った。 「とんでもねぇよ…そんなわけあるか…アンタが救世主だった…クズなわけねぇじゃねぇか…」
楓花(ふうか) 投稿者
ジャケット男は丸坊主男の背中を強く2度叩き、今度は肩を組んでこう言った。 「まぁ美味いもんでも食おうぜ。家族も待ってる。お前が良ければ、お前も俺の家族の一員になってくれ」 丸坊主男は涙をボロボロ流しながら答えた。 「断れるわけねぇだろうがよ。このクソッタレ救世主が」 ジャケット男は笑いながら、丸坊主男と共に家路へと向かった。
楓花(ふうか) 投稿者
レインコート男は我に返った。 そしてジャケット男の頬を叩いて叫んだ。 「死ぬな!お前は死んだらダメな男だ!」 ジャケット男はまだ意識を保っていた。 「なぜそう思う?刺したのはお前なのに」 「アンタは俺が欲してた物を全て持ってる。アンタに今死なれたら、俺は永遠に後悔する。そして、永遠に惑う事になる」 ジャケット男は口から血を流しながら笑った。 「人は皆、惑い人だ。遅かれ早かれ、それに気付く。俺は気付いてしまったんだ。あまりにも早く」